茨城県は都市近郊でありながら農地に接した戸建てが多く、相続した実家に畑や田んぼが付いているケースが珍しくありません。ところが「農地が付いているせいで売却できない」「農業委員会の許可が必要と言われたが何のことか分からない」という相談は、茨城県内4店舗(つくば・水戸・取手戸頭・守谷)でも共通して寄せられています。
本記事は、茨城県全域を担当する不動産会社ハウスドゥが、農地付き空き家・農地単体の売却について、農地法の許可制度・2023年の法改正・茨城県内の空き家バンクの実例・税金までを一次情報に基づいて整理したものです。
この記事のポイント
- 農地付き空き家の売却には、宅地部分とは別に「農地法」の許可が必要になる場合がある
- 2023年4月の農地法改正で、農地取得の「下限面積要件」が全国で廃止された
- それでも「全部効率利用要件」「農作業常時従事要件」「地域との調和要件」は残っており、買い手が誰でもよいわけではない
- 宅地だけを分筆して売り、農地を残すという現実的な選択肢がある
- 相続した農地付き空き家は、放置すると特定空家等の勧告リスクと固定資産税の負担が同時に進行する
茨城県で農地付き空き家の相談が増えている背景
総務省の統計や国土交通省の資料でも指摘されている通り、地方都市では宅地と農地が一体で登記・利用されてきた住宅が多く、相続を機に「家は要らないが農地の扱いが分からない」という相談が増える傾向にあります。茨城県は県北・県西を中心に兼業農家の戸建てが多く、つくば市・水戸市のような都市部でも、少し郊外に出れば畑付きの実家は珍しくありません。
茨城県内の空き家バンクを実際に確認すると、常陸大宮市では登録された空き家に付属する1アール(100平方メートル)以上の農地を「農地付き空き家バンク」として登録できる制度が用意されています。県内の地域密着企業が運営する情報サイトでも「農地付きの田舎の家はなぜ売れないのか」というテーマが取り上げられており、茨城県内で実際に直面している問題であることがうかがえます。
農地付き空き家とは何か
農地付き空き家とは、宅地に建つ住宅(空き家)に、畑・田んぼなどの農地が付属している物件を指します。法律上の正式な用語ではなく、国土交通省や自治体の空き家バンクが使う実務上の呼び方です。多くの場合、登記簿上は「宅地」と「田」「畑」が別の地目として存在し、同一の敷地内、または隣接して所有されています。
宅地と農地が別地目である理由
地目は登記上の土地の用途区分で、宅地・田・畑・山林などに分かれます。同じ敷地の中でも、家が建っている部分は「宅地」、その隣で作物を育てていた部分は「田」または「畑」として、別々の地番・地目で登記されているのが一般的です。この地目の違いが、売却時に別々の法律(宅地は自由に売買できるが、農地は農地法の制限を受ける)が適用される原因になります。
農地付き空き家に多い建物の特徴
国交省や複数の調査記事によれば、農地付き空き家は敷地面積が広く、母屋のほかに納屋・農機具置き場・蔵などの付属建物を伴う「古民家」型が多い傾向があります。茨城県内でも、県北の常陸大宮市・常陸太田市・大子町などで、この種の物件が空き家バンクに多く登録されています。
農地の売買に「農地法」の許可が必要な理由
宅地は所有者の判断で自由に売買できますが、農地はそうはいきません。農地法という法律により、農地の権利を移動させる(売る・貸す・相続以外の方法で名義を変える)ときには、原則として農業委員会の許可が必要です。これは、日本の農業生産基盤である優良な農地が、資産保有や資材置き場目的などで無秩序に転用されることを防ぐための制度です。
農地付き空き家の売却でつまずく最大の理由は、この「農地法の許可」の存在を知らないまま、宅地と同じ感覚で買い手を探してしまうことにあります。買い手が決まっても、農業委員会の許可が下りなければ所有権移転登記ができません。
農地のまま売る場合は農地法3条
農地を農地のまま(引き続き耕作する前提で)売買・贈与・貸借する場合は、農地法3条の許可が必要です。許可を出すのは農業委員会で、市町村ごとに設置されています。買い手が個人か農地所有適格法人かを問わず、この許可なしに所有権移転の登記をすることはできません。
宅地などに転用する場合は農地法4条・5条
農地を宅地・駐車場・資材置き場など農地以外の用途に変える場合は、農地法4条(所有者自身が転用する場合)または5条(転用のために第三者へ権利を移転する場合)の許可・届出が必要です。市街化区域内の農地であれば農業委員会への届出で足りますが、市街化調整区域や農用地区域では、より厳格な許可制となり、原則として転用が認められない区域(農用地区域内農地・甲種農地など)も存在します。

【2023年法改正】下限面積要件が全国で廃止された
農地付き空き家の売買を考えるうえで、直近で最も影響の大きかった制度変更が「下限面積要件の廃止」です。
従来、農地法3条の許可を得て農地を取得するには、取得後の耕作面積が都府県で50アール(5,000平方メートル)以上になることが条件でした(北海道は2ヘクタール)。この「下限面積要件」があるために、家庭菜園程度の小さな農地を買いたい移住者や、空き家に付属する数百平方メートルの畑だけを引き継ぎたい人が、農地法上の許可を得られないという事態が各地で起きていました。
2023年4月1日施行の農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律により、この下限面積要件は全国で廃止されました。これにより、10アール(1,000平方メートル)程度の小規模な農地でも、農業委員会の許可を得て取得できる道が開けています。国土交通省も、この改正を受けて2024年10月に「農地付き空き家の手引き」を改訂し、自治体の取り組み事例を追加しています。
下限面積要件が無くなっても許可が要らないわけではない
ここが最も誤解されやすい点です。下限面積要件が廃止されたのは、あくまで許可基準の一つが無くなっただけであり、農地法3条の許可そのものが不要になったわけではありません。買い手は引き続き、以下で説明する3つの要件を満たす必要があります。
下限面積が無くなっても残る3つの許可要件
農地法3条の許可を得るには、下限面積要件以外に次の3つの要件を満たす必要があります。買い手を探す際は、この3点を先に説明しておくと後のトラブルを避けられます。
全部効率利用要件
買い手が既に持っている農地と、これから取得する農地のすべてについて、効率的に耕作の事業を行うと認められる必要があります。休耕地を放置しがちな人や、遠方に住んでいて通作が現実的でない人は許可されにくい傾向があります。
農作業常時従事要件
買い手またはその世帯員が、取得後の農地の耕作に常時従事すると認められることが必要です。目安として年間150日以上農作業に従事することが一般的な基準とされています。週末だけ家庭菜園を楽しみたいという動機だけでは、許可のハードルになる場合があります。
地域との調和要件
取得後の耕作内容や農地の位置・規模が、周辺地域の農地利用や集団的な営農に支障を与えないことが求められます。地元の農業委員が現地を確認し、周辺農家との関係も含めて審査されます。
この3要件があるため、「農地を残したまま売りたいが、買い手が農業経験の無い都市部からの移住希望者だった」というケースでは、そのままでは許可が下りない可能性があります。この場合の現実的な選択肢は、後述する「農地を残して宅地だけ売る」方法です。
農地を残して宅地だけ売る、という現実的な選択
茨城県内の解体・空き家関連事業者の情報でも紹介されている通り、農地付き空き家の売却で最も採用されているのが「宅地部分だけを分筆して売り、農地は所有者や親族の手元に残す」という方法です。
分筆登記とは
分筆とは、1つの土地(1筆)を登記上、複数の土地に分割する手続きです。宅地と農地が一体で登記されている場合、まず土地家屋調査士に依頼して境界を確定し、分筆登記を行うことで、宅地部分だけを独立した土地として売却できるようになります。
農地を残す場合に検討したい3つの道
- 親族が管理を引き継ぐ 相続人の誰かが農地だけを相続し、貸し出す、または自ら管理する方法。農地法3条の許可は同一世帯内の相続では原則不要(相続による取得は許可対象外だが、農業委員会への届出は必要)。
- 近隣の農家に貸す・売る 地元で耕作を続けている農家であれば、全部効率利用要件・常時従事要件を満たしやすく、農地法3条の許可が下りやすい相手になります。
- 農地バンク(農地中間管理機構)を利用する 都道府県ごとに設置されている農地の貸し借りを仲介する公的な仕組みで、耕作放棄地化を防ぐ目的で運用されています。茨城県内にも県の農地中間管理機構の窓口があります。

農地付き空き家バンクという選択肢
茨城県内の複数の市町村では、空き家バンク制度の中に「農地付き空き家」の登録区分を設けています。例えば常陸大宮市では、空き家バンクに登録した空き家に付属する1アール以上の農地を、農地付き空き家バンクとして併せて登録できる仕組みがあります。
空き家バンクを利用するメリットは、移住・田舎暮らしを希望する購入希望者が自治体の窓口経由で見つかりやすいことです。一方で、自治体ごとに登録要件・仲介の仕組みが異なり、先に不動産会社と専任媒介契約を結んでしまうと登録できない自治体がある点には注意が必要です(茨城県内の空き家バンクの仕組み全般は、当社の「茨城県の空き家バンク」の記事もあわせてご確認ください)。
売却までの流れ|農地付き空き家の場合
ステップ1:登記事項証明書で地目を確認する
まず法務局で登記事項証明書を取得し、宅地と農地がどのように分かれて登記されているかを確認します。同一の地番に混在している場合は、まず境界と地目の整理から始まります。
ステップ2:農業委員会に事前相談する
売却を検討し始めた早い段階で、物件所在地の農業委員会に相談することをおすすめします。その農地が市街化区域・市街化調整区域・農用地区域のどれに該当するか、どの程度の規模の買い手であれば許可が見込めるかは、地域ごとの運用によって差があります。
ステップ3:宅地と農地、売り方の方針を決める
宅地と農地を一体で売るか、分筆して宅地だけ先に売るかを決めます。農地に買い手が見つかりにくい場合は、宅地の売却を先行させ、農地は空き家バンクや農地バンクへの登録で並行して探すという進め方も可能です。
ステップ4:買い手を探す(仲介・空き家バンク・買取)
宅地部分は通常の仲介・買取と同様に進められます。農地部分は、耕作希望者・近隣農家・空き家バンク経由の移住希望者などが主な買い手候補になります。当社では、農地付き物件でも宅地部分の買取や仲介のご相談をお受けしています。
ステップ5:農業委員会の許可・登記
買い手が決まったら、農地部分は農業委員会へ許可申請を行います。許可までの期間は自治体によって差がありますが、目安として1〜2か月程度、審査が長引く場合は半年以上かかることもあります。許可が下りて初めて、農地の所有権移転登記が可能になります。
相続した農地付き空き家を放置するとどうなるか
茨城県内でも、相続した農地付き空き家をそのまま放置しているケースが少なくありません。農地は宅地に比べて固定資産税評価額が低いため「税金がかからないから」と後回しにされがちですが、放置には次のようなリスクがあります。
建物側は特定空家等のリスク
空き家部分を長期間放置すると、老朽化により「特定空家等」に指定され、市町村から助言・指導、さらには勧告を受ける可能性があります。勧告を受けると、建物が建つ宅地部分に適用されている固定資産税の住宅用地特例(最大6分の1への軽減)が外れ、税額が跳ね上がる点は、当社の別記事「空き家3年放置で罰金100万円は本当?」でも詳しく解説しています。
農地側は耕作放棄地化のリスク
農地を放置すると、雑草や樹木が茂り「耕作放棄地」となり、近隣の農地への病害虫・鳥獣被害の原因になることがあります。農業委員会から利用意向調査の通知が届くこともあり、将来的に売却・貸借する際の心証にも影響します。
相続登記の義務化との関係
2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になり得ます。農地・宅地とも相続登記の対象であり、地目が違っても手続きを先延ばしにするほど相続人が増え、意思決定が難しくなる点は共通しています(相続手続き全般は当社の「共同名義の相続」の記事もご参照ください)。
農地・農地付き空き家の税金
固定資産税・都市計画税
農地は宅地に比べて固定資産税評価額が低く、特に生産緑地や農業振興地域内の農地は税負担が軽減されています。ただし、耕作されていない農地は「遊休農地」として評価が見直される場合があり、必ずしも税額が低いままとは限りません。
譲渡所得税
農地・宅地とも、売却して利益(譲渡所得)が出た場合は譲渡所得税・住民税の対象になります。所有期間が5年を超える長期譲渡か、5年以下の短期譲渡かで税率が大きく異なり(長期20.315%、短期39.63%)、判定の基準日は売却した年の1月1日時点での所有期間です。
相続空き家の3,000万円控除は農地には使えない
相続した空き家を売却した際に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例は、あくまで「被相続人居住用家屋」とその敷地が対象であり、建物と離れた場所にある農地や、家屋の敷地として使われていなかった農地部分には適用されません。農地付き空き家を売却する際は、宅地部分と農地部分で税務上の扱いが分かれることを前提に、税理士へ確認することをおすすめします(本特例の詳細な要件は当社の別記事で解説しています)。
農地付き空き家を「買う」場合の注意点(参考)
本記事は主に売却をお考えの方向けですが、当社には移住希望者からの購入相談が寄せられることもあるため、買い手側の視点も簡単に触れておきます。農地付き空き家を購入する場合も、農地部分の取得には農地法3条の許可が必要です。前述の3要件(全部効率利用・常時従事・地域との調和)を満たせるかどうかが購入前の最大の確認ポイントであり、「農地付き空き家 デメリット」として検索される内容の多くは、この許可のハードルに関するものです。購入前に必ず物件所在地の農業委員会へ事前相談することをおすすめします。
茨城県内で農地付き空き家の相談が多いエリア
当社が県内4店舗(つくば・水戸・取手戸頭・守谷)で受けるご相談の傾向として、農地付き空き家は都市部よりも郊外・県北エリアに多く見られます。つくば市・土浦市周辺でも市街化調整区域には農地付きの住宅が点在し、水戸市より北の県北エリア(常陸大宮市・常陸太田市・那珂市など)では、空き家バンクに農地付き物件が登録されている例が複数あります。エリアによって農業委員会の運用や、市街化区域・市街化調整区域・農用地区域の指定状況が異なるため、まずは物件所在地の自治体窓口への確認が第一歩になります。
まとめ|農地付き空き家は「分ける」発想で動く
農地付き空き家の売却が難しく感じられる最大の理由は、宅地と農地という性質の異なる2つの資産が一体になっているためです。2023年の法改正で下限面積要件は無くなりましたが、全部効率利用要件・常時従事要件・地域との調和要件は残っており、誰でも自由に農地を買えるわけではありません。宅地と農地を切り分けて考え、宅地は仲介・買取で、農地は空き家バンク・近隣農家・農地バンクでと、売り方を分けて検討することが、放置による特定空家化・耕作放棄地化を避ける近道です。
茨城県内4店舗のご案内(ハウスドゥ)
農地付き空き家は物件ごとに事情が大きく異なるため、まずはお近くの店舗、またはhousedo.group全体でのご相談をおすすめします。
- ハウスドゥ つくば研究学園都市(つくば市・土浦市エリア)
- ハウスドゥ 家・不動産買取専門店 県庁水戸(水戸市・県央エリア)
- ハウスドゥ 取手戸頭(取手市・龍ケ崎市エリア)
- ハウスドゥ 守谷(守谷市・つくばみらい市エリア)
よくある質問
Q. 農地付き空き家は農地部分だけ相続放棄できますか?
相続放棄は不動産単体では選べず、預貯金なども含めた相続財産全体を一括で放棄するかどうかの選択になります。農地だけを放棄して宅地は相続する、ということはできません。詳しくは当社の相続関連記事もご参照ください。
Q. 農地を宅地に転用してから売った方が高く売れますか?
市街化調整区域や農用地区域では、そもそも転用が認められないケースが多く、転用できたとしても許可までに数か月かかります。転用の可否と期間は市町村・区域によって大きく異なるため、まず農業委員会や当社にご相談いただくのが確実です。
Q. 農地の売買に仲介手数料はかかりますか?
農地単体の売買を不動産会社が仲介する場合も、宅地建物取引業法に基づく仲介手数料が発生するのが一般的です。金額の目安や、宅地部分とまとめて依頼する場合の考え方は、担当店舗にご相談ください。
Q. 農地付き空き家は空き家バンクと不動産会社、どちらに相談すべきですか?
空き家バンクは移住・定住を目的とした自治体の仕組みで、成約までに時間がかかることも多い一方、不動産会社への仲介・買取依頼は反響のスピードが異なります。先に不動産会社と専任媒介契約を結ぶと空き家バンクに登録できなくなる自治体もあるため、両方を検討する場合は順番にご注意ください。
Q. 農地の測量や境界確定は必ず必要ですか?
宅地と農地を分筆して売る場合、境界の確定測量が必要になるのが一般的です。測量には土地家屋調査士への依頼と数十万円程度の費用、数か月の期間を要することがあります。
Q. 下限面積要件が廃止されたので、誰でも農地を買えるようになったのですか?
いいえ。下限面積の基準が無くなっただけで、全部効率利用要件・農作業常時従事要件・地域との調和要件という3つの要件は引き続き審査されます。農業経験の無い方が農地単体を購入するハードルは、面積が小さくても残っています。




