取手市には現在107か所、合計約26.0ヘクタールの生産緑地地区がある。一方、隣接する守谷市はわずか18地区・約2.31ヘクタールにとどまる。同じ茨城県内、しかも取手市と守谷市は常磐線・つくばエクスプレスで隣り合う関係にありながら、なぜこれほどの差が生まれるのか。生産緑地は「市街化区域に農地を残す」という都市計画の制度でありながら、相続や売却の場面では固定資産税・相続税の扱いを大きく左右する。茨城県内でこの制度が実際にどう運用されているのか、一次資料をもとに市町村別に整理する。
生産緑地・特定生産緑地とはどんな制度か
生産緑地地区は、都市計画法に基づく地域地区の一つで、市街化区域内にありながら現に農業が営まれている農地を、緑地機能に着目して計画的に保全するために指定される区域である。平成4年(1992年)の生産緑地法改正で本格的に導入された。
指定される農地の条件
生産緑地地区に指定されるのは、市街化区域内にあり、公害または災害の防止・農業と調和した都市環境の保全に役立つと市町村が判断した農地等である。指定を受けると、農地としての管理が義務づけられ、無許可で建築物を建てたり土地の形質を変更したりすることは原則できなくなる。取手市の公式ページによれば、農産物の生産・集荷施設や農業従事者の休憩施設など、農業に直接関わる一定の施設に限り市長の許可を受けて建築が可能とされている。
指定を受けると税制優遇がある
生産緑地に指定された農地は、宅地並みではなく農地として固定資産税・都市計画税が課税され、相続税・贈与税については一定の要件のもとで納税猶予を受けられる。市街化区域内の農地は本来「宅地化すべき農地」として宅地並み課税になるのが原則だが、生産緑地はその例外にあたる。
特定生産緑地制度とは(平成30年創設)
生産緑地は、都市計画決定の告示から30年が経過すると、所有者はいつでも市町村へ「買取りの申出」ができるようになる。平成30年(2018年)施行の改正生産緑地法で、この30年の期限を所有者の意向により10年ずつ延長できる「特定生産緑地」制度が新設された。特定生産緑地に指定されれば、買取り申出が可能になる時期が10年延期され、従来どおりの税の優遇も継続する。指定は告示から30年を経過するまでに行う必要があり、期限を過ぎると特定生産緑地には指定できない。

「生産緑地の2022年問題」とは何だったのか
平成4年(1992年)に集中的に指定された生産緑地の多くが、2022年に告示から30年を迎えた。この時点で特定生産緑地への移行手続きを取らなければ、所有者はいつでも市町村に買取りを申し出られる状態になり、農地が一斉に宅地転用・売却に動いて不動産市場に影響を与えるのではないか、と懸念されたのが「2022年問題」である。
全国では多くが特定生産緑地へ移行した
国土交通省の資料によれば、平成4年指定の生産緑地を持つ全国の自治体の多くで、所有者の意向を踏まえた特定生産緑地への移行が進み、懸念されたほどの急激な宅地化の混乱は生じなかったとされている。
茨城県内での影響は限定的だった
茨城県内で生産緑地地区を持つ市町村自体が少なく、後述のとおり面積も東京近郊のベッドタウン都市と比べて小規模なため、2022年問題が茨城県の不動産市場全体に与えた影響は限定的だったとみられる。ただし、個々の生産緑地の所有者にとっては、10年後・20年後にも同じ判断を迫られる制度であることに変わりはない。
指定期限は今後も順次到来する
特定生産緑地の指定期限は、告示日から30年後の「申出基準日」ごとに市町村単位で到来する。後述する守谷市の場合、令和14年(2032年)12月20日が申出基準日にあたり、令和13〜14年にかけて指定手続きが予定されている。
茨城県内で生産緑地地区があるのはどこか
生産緑地は「市街化区域」を持つ市町村でなければ存在し得ない制度である。茨城県内で区域区分(線引き)が行われている市町村は22市町村にとどまり(水戸市・日立市・土浦市・古河市・結城市・龍ケ崎市・常陸太田市・高萩市・北茨城市・取手市・牛久市・つくば市・ひたちなか市・守谷市・那珂市・筑西市・坂東市・つくばみらい市・大洗町・東海村・阿見町・利根町)、残る市町村には市街化区域そのものが存在しない。
市街化区域があっても指定は市町村の判断
市街化区域を持つ市町村であっても、生産緑地地区を実際に指定するかどうかは市町村の判断による。取手市・守谷市のように積極的に指定を行ってきた市町村がある一方、市街化区域はあっても生産緑地地区の指定実績が確認できない、あるいは規模が小さい市町村も存在する。
本記事で確認できた指定状況
本記事では、各市町村の公式サイトおよび国土交通省の調査資料で確認できた範囲の数値を掲載する。掲載のない市町村について「生産緑地が存在しない」と断定するものではなく、確認できた一次情報の範囲であることをお断りしておく。
市町村別の指定状況を比較する
茨城県内で公式に数値が確認できた市町村の指定状況は次のとおりである。
| 市町村 | 生産緑地地区(累計) | 特定生産緑地(内数) | 時点・出典 |
|---|---|---|---|
| 取手市 | 107か所・約26.0ヘクタール | うち約17.59ヘクタールを令和6年2月16日告示分で特定生産緑地に指定 | 2026年5月15日更新・取手市公式 |
| 守谷市 | 18地区・約2.31ヘクタール | 申出基準日は令和14年12月20日、指定手続きは令和13〜14年予定 | 令和8年3月16日更新・守谷市公式 |
| 龍ケ崎市 | -(生産緑地地区の総数は未確認) | 特定生産緑地6地区・約6ヘクタール | 令和4年12月末時点・国土交通省調査 |
| 牛久市 | -(生産緑地地区の総数は未確認) | 特定生産緑地5地区・約6ヘクタール | 令和4年12月末時点・国土交通省調査 |

取手市がひときわ多い理由
取手市は平成4年の制度開始当初から積極的に生産緑地の指定を行ってきた経緯があり、107か所・約26.0ヘクタールという県内では際立った規模になっている。市街化区域内に農地としての土地利用が計画的に位置づけられているエリアが、他市町村と比べて多く残っている形だ。取手市エリアの不動産売却についてはハウスドゥ取手戸頭店でも個別に相談を受け付けている。
守谷市・龍ケ崎市・牛久市は数ヘクタール規模
常磐線・つくばエクスプレス沿線で宅地化が進んだ守谷市・龍ケ崎市・牛久市は、いずれも数ヘクタール規模にとどまる。守谷市の18地区は1地区あたり0.05〜0.30ヘクタール程度と小規模な農地が住宅地の中に点在する形で残っている。守谷市内で生産緑地に該当する土地の売却・相続を検討している場合は、ハウスドゥ守谷店へ相談することもできる。
つくば市・水戸市などは個別確認が必要
つくば市・水戸市・ひたちなか市など、市街化区域を持つ他の市町村については、本記事の調査時点で生産緑地地区の指定面積を示す公式資料を確認できなかった。指定が無い、あるいは公開情報が少ない可能性があり、対象地の生産緑地指定の有無は各市町村の都市計画課へ個別に確認することをおすすめする。つくば市はハウスドゥつくば研究学園都市店、水戸市はハウスドゥ県庁水戸店が地域の不動産売却相談に対応している。
生産緑地の税制優遇の中身
生産緑地に指定された農地には、大きく分けて二つの税制優遇がある。
固定資産税・都市計画税の軽減
市街化区域内の農地は、原則として「宅地並み課税」の対象になる。生産緑地に指定されるとこの原則が適用されず、一般農地と同水準の低い評価で固定資産税・都市計画税が課税される。買取りの申出を行い行為制限が解除されると、この軽減は段階的になくなり、5年程度かけて宅地並み課税へ引き上げられる。茨城県内の都市計画税・固定資産税の市町村別の扱いは茨城県の都市計画税がかかる地域と茨城県の固定資産税の実情で詳しく解説している。
相続税・贈与税の納税猶予
生産緑地を農業相続人が引き継いで営農を継続する場合、一定の要件のもとで相続税・贈与税の納税が猶予される制度がある。ただし、告示から30年を経過した後に発生した相続については、特定生産緑地に指定されていなければ新たに納税猶予を受けることはできない。相続のタイミングと特定生産緑地の指定状況の組み合わせによって、扱いが変わる点に注意が必要だ。
生産緑地に指定された土地は売れるのか
「生産緑地だから売れない」わけではないが、通常の宅地とは異なる手続きを踏む必要がある。
買取りの申出制度とは
生産緑地法第10条に基づき、次のいずれかに該当する場合、所有者は市町村長に対して生産緑地の買取りを申し出ることができる。告示から30年を経過したとき(特定生産緑地に指定していない場合)、または農業の主たる従事者が死亡・故障で農業に従事できなくなったときである。
申出から行為制限解除までの流れ
買取りの申出を受けた市町村は、一定期間内に買い取るかどうかを通知する。買い取らない場合は、農業委員会の協力のもとで営農希望者へのあっせんが行われ、申出日から3か月が経過してもあっせんが成立しなければ、生産緑地の行為制限が解除される。解除後は農地転用の手続きを経て宅地等として活用・売却が可能になる。
指定解除後の宅地転用と売却の注意点
行為制限が解除されても、農地であることに変わりはなく、宅地として売却するには別途、農業委員会への農地転用の届出・許可手続きが必要になる。市街化区域内の農地であれば届出制で済むケースが多いが、書類の準備や測量、隣地との境界確認などに時間がかかることも多く、売却を検討し始めてから実際に契約に至るまで数か月単位の期間を見込んでおく必要がある。市街化区域・市街化調整区域と農地転用の関係全般は茨城県の土地利用|農地・宅地・山林と市街化調整区域で解説している。転用後の土地に古い納屋や空き家が残っている場合は、解体Do!で解体費用の目安を確認することもできる。
生産緑地の土地を相続・売却するときに気をつけたいこと
生産緑地・特定生産緑地に指定された農地は、相続や売却の場面で一般の宅地とは異なる判断が必要になりやすい「訳あり」に分類される土地でもある。
相続時に評価額・納税猶予がどう影響するか
生産緑地は評価額が一般農地並みに抑えられている分、相続税評価額そのものは宅地より低く算出されることが多い。一方で、営農を継続しない選択をすると納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額に利子税を加えて納付しなければならないケースがある。相続が発生した時点で「営農を続けるか」「特定生産緑地の指定を受けるか」「買取りの申出を行うか」を早い段階で整理しておくことが望ましい。
耕作を続けられない場合の相談先
相続人が農業に従事する予定がなく、耕作の継続が難しい場合は、市の都市計画課・農業委員会に加え、地域の不動産会社にも早めに相談することをおすすめする。生産緑地のまま放置すると農地としての管理義務違反になりうる一方、拙速に転用・売却を進めると税制優遇を失うだけになりかねない。取手市・守谷市など指定件数の多い市町村では、都市計画課の窓口で買取り申出の手続きを個別に案内している。相続した農地に空き家が併設されているケースの実例は農地付き空き家の売却|農地法3条・5条と茨城県の実例で紹介している。
茨城県内で生産緑地は今後どうなっていくか
制度上、生産緑地は「いつか宅地化されうる農地」として設計されている。
特定生産緑地の指定期限が順次到来する
守谷市の申出基準日である令和14年(2032年)12月20日のように、各市町村の生産緑地地区にはそれぞれ告示日から30年後の期限が設定されている。今後も市町村ごとにこの期限が順次到来し、所有者は特定生産緑地への移行か、買取り申出かの判断を迫られることになる。
宅地化が進めば周農の相場にも影響しうる
取手市のように26.0ヘクタールという規模の生産緑地を抱える市町村では、仮に一部でも指定解除・宅地転用が進めば、周辺の宅地供給量や相場に一定の影響を与える可能性がある。守谷市・龍ケ崎市・牛久市のように規模が数ヘクタールにとどまる市町村では、影響はより限定的と考えられる。
よくある質問
Q1. 自分の土地が生産緑地に指定されているかどうか、どうやって確認できますか?
市町村の都市計画課で都市計画図や生産緑地地区の指定一覧を確認する方法が確実です。取手市・守谷市のように指定地区の一覧をホームページで公開している市町村もあります。登記簿や固定資産税の課税明細だけでは判断がつかないこともあるため、対象地のある市町村へ直接問い合わせることをおすすめします。
Q2. 生産緑地の土地は今すぐ売ることができますか?
生産緑地のまま第三者へ農地以外の用途で売却することは、行為制限により原則できません。まず市町村へ買取りの申出を行い、行為制限が解除されてから農地転用の手続きを経る必要があります。申出の条件(告示から30年経過、または主たる従事者の死亡・故障)を満たしているかどうかの確認が最初のステップになります。
Q3. 特定生産緑地に指定されなかった生産緑地はどうなりますか?
指定を受けないまま告示から30年を経過すると、所有者はいつでも市町村へ買取りの申出ができるようになります。申出後にあっせんが不成立となれば行為制限が解除され、宅地等として活用できるようになりますが、農地としての固定資産税の軽減は段階的になくなります。
Q4. 生産緑地の相続税納税猶予は、特定生産緑地に指定しないと使えなくなりますか?
告示から30年を経過した後に発生した相続については、特定生産緑地に指定されていなければ新たに納税猶予の適用を受けることはできません。すでに納税猶予を受けている場合の継続可否や、猶予打ち切り時の利子税の扱いは個別の事情によって変わるため、税理士など専門家への確認をおすすめします。
Q5. つくば市や水戸市にも生産緑地地区はありますか?
つくば市・水戸市はいずれも市街化区域を持つ都市計画区域ですが、本記事の調査時点では生産緑地地区の指定面積を示す公式資料を確認できませんでした。指定の有無や規模については、各市の都市計画課へ直接お問い合わせください。
Q6. 生産緑地の土地を相続したが農業を続けられません。どうすればいいですか?
まずは対象地のある市町村の都市計画課・農業委員会に相談し、買取りの申出の条件を満たしているか確認することが第一歩です。あわせて、売却を視野に入れる場合は地域の不動産会社にも早めに相談し、農地転用の手続きや必要書類、想定されるスケジュールを把握しておくと、その後の判断がしやすくなります。
Q7. 生産緑地の指定が解除された農地は、そのまま住宅を建てられますか?
行為制限が解除された直後の段階では、まだ農地法上の扱いのままです。住宅を建てるには農業委員会への農地転用届出(市街化区域内であれば届出制)を経て、地目を宅地に変更する必要があります。測量・造成など宅地としての整備が必要になるケースも多く、着工までにはある程度の期間を見込んでおく必要があります。
まとめ
生産緑地・特定生産緑地は、市街化区域内に農地を計画的に残すための制度であり、茨城県内では取手市・守谷市・龍ケ崎市・牛久市など、東京近郊のベッドタウンとして宅地化が進んだ市町村を中心に指定が確認できる。取手市の107か所・約26.0ヘクタールという規模は県内でも際立っており、守谷市・龍ケ崎市・牛久市は数ヘクタール規模にとどまる。制度の性質上、生産緑地は「いつか宅地化されうる農地」であり、告示から30年の節目ごとに所有者は特定生産緑地への移行か買取り申出かの判断を迫られる。相続や売却を検討する際は、税制優遇の内容と期限を正しく理解したうえで、早めに市町村の窓口と地域の不動産会社の両方に相談することが、後悔のない選択につながる。
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