茨城県の「擁壁・傾斜地の物件」を考える前提
茨城県は関東平野の一角にあり平坦な土地が多い印象を持たれがちですが、県北の阿武隈山地南端や筑波山周辺、霞ヶ浦・涸沼沿岸の台地端部など、傾斜地・がけ地を抱える地域も少なくありません。分譲地の中には昭和期の造成による高低差のある区画や、擁壁で支えられた宅地も存在します。
「茨城県」という県単位の視点で見たとき、擁壁・傾斜地の物件には共通して押さえておくべき法制度が存在します。この記事では、茨城県の公式データと条例に基づき、擁壁・傾斜地物件を検討・所有・売却するうえで知っておきたい制度を整理します。市町村ごとの詳細な立地相談は、担当エリアの店舗サイトで承っています。
「がけ」「擁壁」「傾斜地」の違いを整理
本記事では次の3つの言葉を区別して使います。
- がけ:建築基準法・条例上、一定の高さ・角度を超える自然または人工の傾斜面
- 擁壁:がけや盛土・切土面の崩壊を防ぐために設置するコンクリート・石積み等の構造物
- 傾斜地:がけほどの角度はなくても起伏がある土地全般を指す一般的な呼び方
不動産取引では「擁壁があるかどうか」「その擁壁が建築基準法に適合しているか」が資産価値・再建築可否に直結するため、この違いを理解しておくことが重要です。
茨城県建築基準条例「がけ条例」の基準
高さ2m超・こう配30度超が対象
茨城県には、建築基準法第40条に基づき県独自の制限を付加する「茨城県建築基準条例」(昭和36年3月31日条例第21号)があります。この条例第5条(がけ)が、いわゆる「がけ条例」です。
条文では、高さ2メートルを超え、こう配(傾斜角度)が30度を超える土地を「がけ」と定義し、がけの下端からの水平距離が「がけの高さの2倍以内」の位置に建築物を建てたり敷地を造成したりする場合には、原則として安全な擁壁を設けなければならないと定めています。
たとえば高さ3mのがけであれば、その下端から水平距離6m以内が制限区域の目安となります。ただし、がけの形状や土質から見て安全上支障がないと認められる部分は対象外とされ、鉄筋コンクリート造とする等の代替措置で緩和される場合もあります(同条第2項)。
市町村ごとに条例を持つ場合もある
建築主事を置く市(水戸市・日立市・土浦市・古河市・つくば市・取手市・常総市・那珂市など)では、県条例ではなく市独自の建築基準条例が適用されるケースがあります。たとえば取手市には「取手市建築基準条例第5条」として同様のがけ条例があり、つくば市にも「つくば市建築基準条例」が定められています。物件所在地によって適用条例が異なるため、詳細は担当エリアの窓口・店舗サイトでの確認が必要です。

茨城県内の土砂災害警戒区域等の指定状況
県内で指定された区域は4,000件超
茨城県土木部河川課ダム砂防室が公表する「土砂災害警戒区域等指定箇所」データ(令和5年3月31日現在)によると、県内の指定は合計4,067件(土石流1,661件・急傾斜地崩壊2,234件・地すべり172件)にのぼり、このうち建築行為等に一定の制限がかかる土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は3,590件を占めます。
県北エリア(常陸大宮市・大子町・常陸太田市・日立市・高萩市・北茨城市)と県央エリア(笠間市・城里町など)で指定件数が多い一方、水戸市・鹿嶋市・神栖市など平野部・沿岸部が中心の市町村では指定がゼロ、または少数にとどまります。地域による差が大きいことが一次データから読み取れます。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に指定されると宅地建物取引業法上の重要事項説明義務が生じ、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されると住宅等の建築に対して知事の許可が必要になるなど、より強い制限がかかります。所在地が該当するかどうかは、茨城県公式の「土砂災害警戒区域等指定箇所(市町村一覧)」または「いばらきデジタルマップ」で確認できます。

指定は「随時更新」される
県は現在、指定区域の見直しを行う「2巡目調査」を実施中で、地形改変や新たな構造物の設置状況に応じて区域の形状が変更されることがあります。数年前に購入した物件でも、現在の指定状況が当時と異なっている可能性があるため、売却・購入いずれの場面でも最新の指定状況を確認することが欠かせません。
盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)と茨城県
令和7年4月・令和8年4月に県内全域が規制区域に
令和3年7月の熱海市土石流災害を契機に、土地の用途にかかわらず危険な盛土等を包括的に規制する「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称:盛土規制法)が令和5年5月26日に施行されました。
茨城県はこれを受けて令和7年4月1日に水戸市を除く県内全域を規制区域に指定し、中核市である水戸市も令和8年4月1日に独自の規制区域指定を行いました。これにより、2026年8月現在、茨城県内の全市町村が「宅地造成等工事規制区域」または「特定盛土等規制区域」のいずれかに含まれています。
規制区域内で一定規模以上の盛土・切土・一時的な土石の堆積を行う場合は、都道府県知事等の許可または届出が必要です。無許可施工や命令違反には懲役3年以下・罰金1,000万円以下(法人には最大3億円以下の罰金)という重い罰則が設けられており、造成を伴う擁壁工事・宅地の切り盛りを検討する際は事前の確認が欠かせません。
「造成宅地防災区域」は現在指定なし
盛土規制法以前の(旧)宅地造成等規制法に基づき、県内ではひたちなか市3か所・鹿嶋市1か所・東海村3か所の「造成宅地防災区域」が指定されていましたが、いずれも令和2年までに指定解除が完了しており、2026年8月時点で県内に現存する造成宅地防災区域はありません。ただし、これは「災害リスクがゼロになった」ことを意味するものではなく、対策工事等により基準を満たしたための解除である点には留意が必要です。
擁壁・傾斜地の物件を売却・購入するときの実務ポイント
擁壁の「検査済み」の有無を確認する
擁壁を含む造成工事が建築確認・工事完了検査を経ているかどうかは、物件の資産価値や住宅ローン審査に影響します。古い分譲地では、確認申請の記録が現存しない、あるいは条例施行前に造成された擁壁も見られます。売却を検討する際は、まず擁壁の建築確認台帳・検査済証の有無を役所窓口で確認することが第一歩です。
擁壁の老朽化・ひび割れは買主に敬遠されやすい
擁壁にひび割れ、はらみ(膨らみ)、排水不良による白華現象(エフロレッセンス)などが見られる場合、買主・金融機関双方から懸念材料とされやすく、成約までの期間が長引く傾向があります。売却前に専門家による現況確認を行い、必要に応じて改修の見積もりを取得しておくと、価格交渉の場でも根拠を持って説明できます。
造成・解体を伴う場合は許可要否の事前確認を
擁壁の新設・改修や大規模な切り盛りを伴う解体工事を検討する場合、前述の盛土規制法に基づく許可・届出の要否を事前に確認する必要があります。茨城県内の解体工事に関する費用・補助金の考え方は、関連記事「茨城県の解体補助金44市町村一覧」もあわせてご覧ください。
擁壁の維持管理責任は誰にあるのか
原則は土地所有者の責任
擁壁の維持管理責任は、原則としてその土地の所有者(擁壁を含む敷地の所有者)にあります。盛土規制法でも、盛土等が行われた土地について「土地所有者等が常時安全な状態に維持する責務を有すること」が明確化されており、擁壁が崩壊した場合には所有者が損害賠償責任を問われる可能性があります。隣地の擁壁の影響を受ける立場であっても、自己の敷地内で対策工事が必要になるケースがある点には注意が必要です。
相続時は擁壁の状態も引き継がれる
擁壁付きの土地を相続する場合、被相続人が把握していた擁壁の履歴(施工時期・改修歴・災害時の被害有無など)が相続人に引き継がれないまま所有者だけが変わることが少なくありません。相続登記や名義変更の機会に、擁壁の現況・関連書類の有無を家族間で共有しておくことで、将来の売却や維持管理の判断がスムーズになります。
地盤・土地の条件とあわせて見る視点
擁壁・傾斜地の物件は、地盤の液状化リスクや土地の広さといった他の土地条件ともあわせて検討することで、より正確な資産評価につながります。茨城県の地盤特性は「茨城県の地盤の特徴|液状化・軟弱地盤と売却への影響」、県内の土地の広さの傾向は「茨城県の土地の広さ|1住宅あたり394㎡で全国1位の理由」で詳しく解説しています。
よくある質問
Q1. 茨城県で「がけ条例」の対象になるのはどんな土地ですか?
茨城県建築基準条例第5条では、高さ2メートルを超え、こう配30度を超える土地を「がけ」と定義しています。このがけの下端から水平距離でがけの高さの2倍以内の範囲に建築する場合、原則として安全な擁壁の設置が必要です。ただし、建築主事を置く一部の市では市独自の条例が適用される場合があります。
Q2. 自分の土地が土砂災害警戒区域かどうかはどこで確認できますか?
茨城県公式サイトの「土砂災害警戒区域等指定箇所(市町村一覧)」、または「いばらきデジタルマップ」で確認できます。指定は随時更新されるため、購入・売却を検討する際は最新の指定状況を確認することをおすすめします。
Q3. 盛土規制法の規制区域に指定されると何が変わりますか?
規制区域内で一定規模以上の盛土・切土・土石の一時堆積を行う場合、都道府県知事等の許可または届出が必要になります。茨城県では令和7年4月に水戸市を除く全域、令和8年4月に水戸市が規制区域に指定され、県内全域が対象となっています。
Q4. 擁壁のある土地は売却しにくいのでしょうか?
擁壁があること自体が直ちに売却の妨げになるわけではありませんが、擁壁の老朽化・ひび割れ・検査済証の有無などが買主・金融機関の判断材料になります。事前に現況を確認し、必要な資料を揃えておくことで、スムーズな取引につながりやすくなります。
Q5. 造成宅地防災区域は茨城県内にまだありますか?
2026年8月時点で、茨城県内に現存する(旧法に基づく)造成宅地防災区域はありません。過去に指定されていたひたちなか市・鹿嶋市・東海村の区域はいずれも令和2年までに指定解除されています。
まとめ
茨城県内の擁壁・傾斜地の物件には、県のがけ条例(高さ2m超・こう配30度超)、土砂災害警戒区域等(県内4,067件指定)、そして令和7〜8年に県内全域へ適用が広がった盛土規制法という、重なり合う複数の制度が関わります。所有・売却・購入のいずれの場面でも、まず「自分の物件がどの制度の対象になるか」を確認することが、適切な資産評価とスムーズな取引につながります。
擁壁や傾斜地を含む不動産の売却・査定について、市町村ごとの詳しい状況は担当エリアの店舗サイト(つくば市・水戸市・取手市・守谷市)でもご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。
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