「事業承継」と聞くと、経営者や後継者だけの話に思えるかもしれません。しかし実際には、店舗・工場・倉庫といった事業用の不動産をどう引き継ぐか、後継者が見つからなかった場合にその不動産をどうするかという、住まいや土地の問題と切り離せないテーマです。本記事では、帝国データバンクの最新調査と茨城県公式情報をもとに、茨城県内の事業承継の実情と、不動産との接点を整理します。
茨城県で「創業・事業承継」と不動産がつながる理由
中小企業の資産の中で大きな比重を占めるのが、本社・店舗・工場・倉庫などの事業用不動産です。経営者が高齢化し後継者が決まらないまま廃業に至ると、その不動産は空き店舗・空き工場として地域に残ります。逆に事業承継がうまく進めば、不動産の権利関係も含めて次の世代・次の担い手へ引き継がれます。創業を考える人にとっても、空き店舗バンクなど既存の事業用不動産を活用できるかどうかは、初期費用を左右する重要な選択肢です。この記事では、茨城県内の後継者不在の実情、県の支援制度、そして相続税・M&A・空き店舗活用という3つの角度から、事業承継と不動産の接点を具体的に見ていきます。
茨城県の後継者不在率41.0%の実情(帝国データバンク2025年)
帝国データバンクが2025年12月11日に公表した「茨城県・『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、茨城県内企業の後継者不在率は41.0%で、前年と変わらず横ばいでした。調査は自社データベース「CCR」をもとに、2023年10月〜2025年10月の期間で分析可能な茨城県内企業4,771社(全業種)を対象にしています。
過去最低水準も、7年連続の改善はストップ
茨城県内企業の後継者不在率は、7年連続で改善が続いていましたが、2025年はその流れが止まり横ばいとなりました。それでも水準としては過去最低を維持しており、後継者が決まっている企業の割合は着実に増えてきた経緯があります。
社長の年代別に見る後継者不在率
同調査では、社長の年代が若いほど後継者不在率が高い傾向が明らかになっています。30代未満および30代の社長では後継者不在率が約7割に達する一方、80代以上の社長では2割を下回りました。経営者は年齢を重ねるにつれて後継者を決めていく傾向がある一方、若い経営者ほど「まだ先の話」として後継者選定が進んでいない実情がうかがえます。
業種別トップは建設47.3%
業種別に見ると、後継者不在率が最も高いのは建設業で47.3%でした。茨城県内の建設業は現場作業員だけでなく経営層の高齢化・後継者不足も進んでいることがうかがえます。
茨城は「同族承継」が過半数|全国の「脱ファミリー化」と逆行
全国的には後継者不在率の改善とともに、親族以外が承継する「脱ファミリー化」が進む傾向にありますが、帝国データバンクの調査によれば茨城県内企業の事業承継は同族承継(親族内承継)が過半数を占めており、全国の傾向とは逆の動きを示しています。地域に根差した中小企業ほど、親族内での承継を選ぶ土地柄がある可能性があります。
なお、全国「後継者不在率」動向調査(2025年)によれば、全国の後継者不在率は50.1%と過去最低を更新しています。全国平均と比べると、茨城県(41.0%)は後継者が決まっている企業の割合がやや高い水準にあると言えます。

茨城県内の事業承継支援体制|相談窓口と地域の広がり
後継者が決まっていない、あるいは承継の進め方が分からないという場合、茨城県ではいくつかの公的な相談窓口が用意されています。
茨城県事業承継支援ネットワーク|47機関が連携
茨城県公式サイトによると、「茨城県事業承継支援ネットワーク」は、県内の商工会議所・商工会・金融機関・支援機関・士業団体等47機関で構成されています。地域における産業や雇用の維持を図るため、構成機関が連携・協働する体制を確立し、県内中小企業の円滑な事業承継を促進することを目的に設置されました。ネットワークでは、事業承継の意識づけを行う「事業承継診断」の実施、「事業承継計画」の策定支援、専門家の派遣、経営者保証解除に向けた金融機関との目線合わせなどの支援が受けられます。
茨城県事業承継・引継ぎ支援センター|ネットワークの事務局
ネットワークの事務局は「茨城県事業承継・引継ぎ支援センター」(水戸市桜川1-1-25大同生命水戸ビル9階、電話029-284-1601)が務めています。経済産業省から水戸商工会議所への委託事業として運営される公的な無料相談窓口で、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)等、事業承継に関するあらゆる相談にワンストップで対応しています。県内を2地域に分け、エリアコーディネーターが各商工会議所・商工会等を訪問して相談案件に対応する体制です。
事業承継税制(経営承継円滑化法)|認定窓口は都道府県
非上場株式等を後継者が贈与・相続で取得した際に贈与税・相続税の納税が猶予される「事業承継税制」は、2017年4月1日から申請企業の主たる事務所がある都道府県が認定窓口になっています。ただし茨城県公式サイトは「県は認定・年次報告の確認・事前確認等を行う権限のみを有し、認定後の納税猶予・免除を約束するものではない」と明記しています。手続きの前提となる「特例承継計画」は2027年9月30日までの提出が必要で、猶予対象となるのは2027年12月31日までに完了した贈与・相続に限られます(2026年時点の県公式情報。制度の詳細・最新の期限は中小企業庁または県窓口で必ず確認してください)。
M&Aによる承継を後押しする県の事業
後継者が親族・従業員にいない場合の選択肢として、茨城県は「M&A促進奨励金事業」「M&Aマッチング促進事業(いばらき未来マッチング)」等を実施し、第三者への事業承継(M&A)を支援しています。M&Aでは株式や事業だけでなく、店舗・工場等の事業用不動産が譲渡対象に含まれるかどうかが交渉の重要なポイントになります。
経営者高齢化の推移とその背景
「脱ファミリー化」が進む全国、進みにくい茨城
全国的には、後継者不在率の改善とともに、親族外への承継(従業員承継・M&A等)が増える「脱ファミリー化」が進行しています。中小企業庁もM&Aによる第三者承継を事業承継の有力な選択肢として位置づけ、各都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを設置してきました。一方で帝国データバンクの調査は、茨城県内企業では同族承継が過半数を占め続けていることを示しています。地縁・血縁を重視する経営文化や、事業用不動産・設備を親族間で引き継ぐことへの心理的なハードルの低さが背景にある可能性があります。
なぜ改善が止まったのか
7年連続の改善が2025年に横ばいへ転じた要因について、帝国データバンクの公表資料では詳細な原因分析までは示されていません。一般的には、経営者の高齢化が進む一方で後継者候補となる若手人材の絶対数が減っていること、事業の先行き不透明感から後継者候補が承継を躊躇するケースがあることなどが、全国的な要因として指摘されています。茨城県固有の要因については、今回参照した一次資料からは確認できませんでした。
後継者不在が地域に与える意味|生活者の視点から
「廃業」と「休廃業・解散」の違い
後継者が見つからないまま経営者が引退時期を迎えると、黒字であっても事業をたたむ「休廃業・解散」に至るケースがあります。倒産のように債務超過で強制的に事業が終わるのではなく、経営が成り立っているのに後継者不在だけを理由に幕を閉じる点が特徴です。
空き店舗化が地域にもたらす影響
商店街の店舗や、住宅街の小規模な事業所が後継者不在で閉店すると、その建物はそのまま空き店舗・空き家として残ることが少なくありません。空き店舗が増えると、商店街の魅力低下や治安・景観面の不安、固定資産税の負担だけが残るといった問題につながります。茨城県が「空き店舗情報局」という専用ページを設けているのも、こうした空き店舗の再活用を後押しする狙いがあります(詳しくは後述します)。
雇用・取引先への波及
後継者不在による廃業は、そこで働く従業員の雇用や、取引先の売上にも影響します。茨城県事業承継支援ネットワークが47機関という規模で構成されているのは、事業承継が一企業の問題にとどまらず、地域の産業・雇用を維持する政策課題として位置づけられているためです。
事業承継が「不動産」に直結する5つの場面

1. 事業用不動産(店舗・工場・倉庫)の承継
中小企業の資産のうち、株式評価額の大きな部分を占めるのが本社・店舗・工場・倉庫などの事業用不動産です。後継者に株式を承継しても、その土地・建物の名義や賃貸借契約、担保設定が整理されていなければ、事業そのものを引き継いだことにはなりません。事業承継の初期段階で、まず事業用不動産の権利関係を棚卸しすることが欠かせません。
2. 特定事業用宅地等の相続税80%減額特例
相続税の「小規模宅地等の特例」には、自宅の敷地(特定居住用宅地等)だけでなく、事業に使っていた土地(特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等)を対象にした区分があります。一定の要件を満たせば、事業用の宅地を最大400平方メートルまで評価額80%減額できる制度で、後継者が相続税の申告期限まで事業を継続することなどが条件になります。自宅の特例については当サイトの別記事「小規模宅地等の特例|80%減の要件と家なき子」で詳しく解説していますので、事業用宅地の要件を検討する際もあわせてご確認ください。
3. M&Aにおける不動産デューデリジェンス
親族内・従業員承継が難しい場合の選択肢がM&Aです。M&Aでは、譲渡対象の事業用不動産が「所有」か「賃借」か、担保・抵当権の有無、境界確定の状況などが買い手側の詳細調査(デューデリジェンス)の対象になります。不動産の状態が整理されていないと、M&Aの交渉自体が長引く、または成立しない要因にもなります。
4. 廃業に伴う事業用不動産の売却・活用
後継者が見つからず廃業を選ぶ場合、事業用不動産は売却するか、次の使い手に貸す・譲るという選択肢があります。特に店舗物件は住宅と違って用途が限定されやすく、売却先探しに時間がかかることも珍しくありません。早めに不動産会社へ相談し、売却・賃貸・空き店舗バンク登録など複数の選択肢を比較検討することが望まれます。
5. 空き店舗バンクという選択肢
茨城県公式「空き店舗情報局」によると、県内では空き店舗を活用した創業を後押しするため、市町村ごとに「空き店舗バンク」の運営や、改修費・家賃への補助、創業者への経営指導等の支援事業が行われています。空き店舗バンクは、空き店舗を使って事業を始めたい人に物件情報を提供し、所有者と利用希望者の橋渡しをする仕組みです。後継者不在で空いた店舗が、創業を目指す次の担い手に引き継がれる例もあります。
茨城県内の空き店舗バンク・対策事業(地域比較)
茨城県公式「空き店舗情報局」(2025年11月25日更新)の一覧をもとに、当社4店舗の担当エリアを含む主な市町村の状況を比較しました。制度の有無・内容は市町村により異なり、記載のない市町村もあります。
| 市町村 | 空き店舗バンク | 空き店舗対策事業(改修費・家賃補助等) |
|---|---|---|
| 水戸市 | 水戸まちなか空き店舗ナビ(水戸商工会議所) | まちなか空き店舗対策事業/中心市街地店舗・事務所等開設促進事業 |
| つくば市 | 記載なし | つくば市既存商店街等空き店舗活用補助金 |
| 取手市 | 記載なし | 取手市空き店舗活用補助事業 |
| 守谷市 | 記載なし | 記載なし |
| 土浦市 | 土浦繁盛記(土浦市商工会議所) | 土浦市中心市街地開業支援事業 |
| 古河市 | 記載なし | 古河市商店街空き店舗等対策事業補助金 |
担当4店舗エリアのうち、守谷市のみ2026年時点の県一覧に空き店舗バンク・対策事業の記載がありませんでした。守谷市で空き店舗の活用を検討する場合は、商工会や市の商工観光担当課へ直接問い合わせることをおすすめします。県全体では、このほかに「Re:BARAKI」(茨城県が運営する移住定住ポータルサイトの空き家バンク内に県内の空き店舗情報を掲載)や、茨城県宅地建物取引業協会が運営する「ハトマークサイト茨城」でも空き店舗を横断的に探すことができます。
事業承継を考え始めたタイミングでやるべきこと
まずは「事業承継診断」を受ける
茨城県事業承継支援ネットワークでは、事業承継に対する意識づけを行う「事業承継診断」を実施しています。商工会議所・商工会の会員であれば、まずこの診断を通じて現状を整理するのが第一歩です。
事業用不動産の権利関係を整理する
登記簿上の名義、賃貸借契約の有無、担保設定、境界確定の状況など、事業用不動産に関する情報を整理しておくと、その後の承継計画や、万が一M&Aや売却に進む場合の手続きがスムーズになります。
専門家(税理士・不動産会社)に早めに相談する
事業承継税制の活用や特定事業用宅地等の特例適用には専門的な判断が必要です。また、廃業や売却を選ぶ場合も、事業用不動産の適正な価格や活用方法は不動産会社に相談することで選択肢が広がります。後継者が決まっていない段階からの早めの相談が、結果的に選べる選択肢を増やします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 茨城県の後継者不在率はどのくらいですか?
帝国データバンクの調査(2025年)によると、茨城県内企業の後継者不在率は41.0%で、前年から横ばいでした。7年連続で続いていた改善傾向は止まったものの、過去最低水準を維持しています。全国平均の50.1%と比べると、茨城県は後継者が決まっている企業の割合が高い傾向にあります。
Q2. 事業承継の相談はどこにすればいいですか?
公的な無料相談窓口として「茨城県事業承継・引継ぎ支援センター」(水戸商工会議所内、電話029-284-1601)があります。また、県内の商工会議所・商工会・金融機関・士業団体など47機関で構成される「茨城県事業承継支援ネットワーク」を通じて、事業承継診断や専門家派遣などの支援を受けられます。
Q3. 事業承継と不動産にはどんな関係がありますか?
中小企業の資産の多くを事業用の土地・建物(店舗・工場・倉庫等)が占めており、事業承継では株式だけでなく不動産の権利関係の整理も欠かせません。相続税の計算では「特定事業用宅地等」の特例により、一定要件を満たす事業用宅地を最大400平方メートルまで80%減額できる制度もあります。
Q4. 廃業した場合、店舗や事業所の不動産はどうなりますか?
後継者が見つからず廃業する場合、事業用不動産は売却するか、市町村の「空き店舗バンク」に登録して次の利用者を探す方法があります。茨城県内では県北・県央・鹿行・県南・県西の各地区で市町村ごとに空き店舗バンクや改修費補助等の対策事業が実施されています(内容は市町村により異なります)。
Q5. 事業承継税制の申請期限はいつまでですか?
茨城県公式サイトによると、事業承継税制の特例措置を利用するための前提となる「特例承継計画」は2027年9月30日までに提出が必要です。また、猶予の対象となる贈与・相続は2027年12月31日までに完了したものに限られます(2026年時点の県公式情報。最新情報は中小企業庁または県窓口で必ずご確認ください)。
Q6. 空き店舗バンクは茨城県内のどの市町村にもありますか?
いいえ。茨城県公式「空き店舗情報局」の一覧によると、空き店舗バンクや空き店舗対策事業の有無・内容は市町村ごとに異なり、記載のない市町村もあります(例:守谷市は2026年時点の一覧に記載がありません)。お住まい・出店予定の市町村の窓口に個別確認が必要です。
Q7. M&Aによる事業承継でも不動産は関係しますか?
関係します。M&Aでは譲渡対象に事業用不動産が含まれるかどうか、賃借か所有か、担保設定の有無などがデューデリジェンス(詳細調査)の対象になります。茨城県では「いばらき未来マッチング」等のM&Aマッチング促進事業も実施されており、事業承継の選択肢の一つとして案内されています。
まとめ
茨城県内企業の後継者不在率は41.0%(2025年・帝国データバンク調べ)で、全国平均の50.1%より低い水準にあります。改善は続いてきたものの2025年は横ばいとなり、同族承継が中心という茨城独自の傾向も見えてきました。事業承継は経営者・後継者だけの課題ではなく、店舗や工場といった事業用不動産をどう引き継ぐか、あるいは空き店舗としてどう再活用するかという、地域の不動産にも直結するテーマです。相続税の特例やM&Aのデューデリジェンスなど、不動産が絡む場面は想像以上に多くあります。事業承継や廃業に伴う不動産の売却・活用を検討する際は、公的な相談窓口とあわせて、地域の不動産事情に詳しい専門家にも早めに相談することをおすすめします。
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