家賃滞納から強制退去までの全体像
「家賃を滞納されている入居者になかなか出て行ってもらえない」「何ヶ月滞納したら法的に退去させられるのか知りたい」——賃貸物件のオーナーからこうした相談を受けることは少なくありません。強制退去は感情的な対応では進められず、法律で決められた手順を踏む必要があります。この記事では、家賃滞納から強制退去に至るまでの流れ・期間・費用の目安を整理し、あわせて滞納が続く物件を「売却」という形で解決する選択肢についても解説します。
「強制退去」とは何を指すのか
強制退去とは、賃貸借契約を解除したにもかかわらず入居者が任意に部屋を明け渡さない場合に、裁判所の手続き(強制執行)によって物件から退去させることを指します。法律上の正式な用語ではなく、一般には督促から明渡しの強制執行までの一連のプロセス全体を指して使われることが多い言葉です。
家賃滞納は何ヶ月で強制退去になる?
結論から言うと、法律で「◯ヶ月滞納したら即退去」という一律の基準は定められていません。ただし裁判実務では、賃貸借契約の解除が認められるかどうかを「賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたと言えるか」で判断する考え方(信頼関係破壊の法理)が定着しており、目安としておおむね3ヶ月程度の滞納が一つの分かれ目とされています。1〜2ヶ月程度の遅れであれば督促の段階で解決するケースが大半で、いきなり契約解除が認められることは通常ありません。
自力での鍵交換・荷物撤去は違法(自力救済禁止の原則)
滞納が続くと「鍵を交換してしまいたい」「荷物を運び出してしまいたい」と考えるオーナーもいますが、日本の法律では個人が実力行使で権利を実現する「自力救済」は原則として禁止されています。裁判所の手続きを経ずに無断で鍵を交換したり、入居者の荷物を処分したりすると、たとえ家賃を滞納している入居者が相手でも、オーナー側が不法行為として損害賠償を請求されるおそれがあります。感情的にならず、必ず正規の法的手続きを踏むことが重要です。
家賃滞納から強制退去までの流れと期間の目安|7つのステップ
家賃滞納が発生してから実際に強制退去(断行)に至るまでは、早くても半年、長引けば1年近くかかるのが一般的です。全体の流れを7つのステップに分けて解説します。

ステップ1|電話・書面での督促(滞納〜1ヶ月程度)
家賃の支払いが遅れた場合、まずは電話や書面での督促が行われます。管理会社が入っている物件では、この段階は管理会社が対応するのが一般的です。連絡がつかない、支払いの意思が見られないといった状況が続くと、次の段階に進みます。
ステップ2|内容証明郵便での催告(1〜2ヶ月程度)
電話や通常の書面で改善が見られない場合、内容証明郵便で「期日までに支払わなければ契約を解除する」旨を通知します。内容証明郵便は1通あたり1,500〜3,000円程度の実費がかかりますが、後の訴訟で「催告した事実」を証明する重要な証拠になります。
ステップ3|賃貸借契約の解除通知
催告期間内に支払いがなく、滞納が3ヶ月程度に達するなど信頼関係が破壊されたと言えるだけの事情がそろった段階で、契約解除の通知を行います。ここで法律上は契約が終了した状態になりますが、入居者が任意に退去しない限り、次の法的手続きに進む必要があります。
ステップ4|建物明渡請求訴訟の提起(提訴後3〜6ヶ月程度)
契約解除後も入居者が退去しない場合は、裁判所に建物明渡請求訴訟を起こします。提訴から第1回口頭弁論期日までに1ヶ月程度、そこから判決が出るまでさらに数ヶ月かかるのが一般的で、トータルでは3〜6ヶ月程度が目安です。入居者が争わず和解に応じれば、より短期間で解決することもあります。
ステップ5|判決・強制執行の申立て
判決が確定しても入居者が退去しない場合、あらためて裁判所に強制執行を申し立てます。判決確定から実際の執行まで、さらに1〜2ヶ月程度の猶予期間が設けられるのが一般的です。
ステップ6|執行官による現地調査・明渡しの催告
強制執行の申立てが受理されると、執行官が物件を訪れて状況を確認し、退去期限を定めた「明渡しの催告」を行います。この段階でようやく退去する入居者も一定数います。
ステップ7|断行(強制的な明け渡しの実施)
催告期限までに退去しない場合、執行官と執行補助者が物件に立ち入り、家財道具を運び出す「断行」が行われます。ここまで進むケースは全体から見れば多くありませんが、最終手段として制度上用意されています。入居者が明渡しに応じない場合の詳しい手続きや費用は「立ち退き拒否されたらどうする?明渡し請求から強制執行までの流れと費用」でも解説しています。
強制退去にかかる費用は誰が負担する?
強制退去の手続きには決して安くない費用がかかります。原則として費用を立て替えるのはオーナー側ですが、後から滞納者に請求すること自体は可能です(実際に回収できるかは別問題です)。
弁護士費用の目安
弁護士に依頼する場合、着手金の目安は15万円〜20万円程度、成功報酬まで含めるとトータルで30万円台になるケースもあります。事案の複雑さや依頼先によって幅があるため、依頼前に見積もりを確認することが欠かせません。
訴訟費用(印紙代・郵便代など)
訴訟提起には請求額に応じた収入印紙代や郵便切手代がかかるほか、内容証明郵便の実費なども発生します。金額自体は数千円〜数万円程度で、弁護士費用に比べると小さな負担です。
強制執行費用(予納金・執行補助者費用)
強制執行を申し立てる際には、裁判所(執行官)に納める予納金として6万円程度が必要になるのが一般的です。加えて、実際に荷物を運び出す執行補助者(人件費・トラック代・保管費・処分費など)の費用が、一般的なアパートの一室であれば30万円〜40万円程度かかることが多いとされています。
滞納家賃・原状回復費は回収できないことも多い
裁判で滞納家賃の支払いを命じる判決が出ても、相手に資力がなければ実際に回収できるとは限りません。保証会社や連帯保証人を付けていれば一定の回収が見込めますが、そうでない場合はオーナーが費用を負担したまま終わるケースも珍しくありません。
ケース別に見る強制退去の注意点
生活保護受給者が家賃を滞納した場合
入居者が生活保護を受給している場合、住宅扶助費(家賃相当分)を本人ではなく福祉事務所からオーナーへ直接支払う「代理納付」という制度があります。2020年(令和2年)4月から、家賃を滞納している生活保護受給者については代理納付を原則化する運用に見直されており、滞納が疑われる段階でオーナーから福祉事務所へ相談することが、滞納の解消や予防につながる場合があります。強制退去の手続きを急ぐ前に、この制度の利用を検討する余地があります。
県営住宅・市営住宅の場合
県営住宅や市営住宅は自治体が管理しており、条例に基づいて滞納者への対応が行われます。自治体は税金で運営している立場上、公平性の観点から滞納に対して比較的早い段階で督促や法的措置に踏み切る傾向があるとされ、悪質な長期滞納に対しては自治体自らが明渡し訴訟を起こす例も見られます。具体的な運用は自治体ごとに異なるため、該当する住宅を管理する窓口への確認が必要です。
店舗・事業用物件の場合
店舗やオフィスなど事業用物件の賃貸借は、居住用に比べて賃料が高額になりやすく、滞納額も大きくなりがちです。また什器や在庫など残置物の扱いが複雑になることも多く、明渡しにかかる費用や調整の手間が住居用より大きくなる傾向があります。事業者側の事情(休業・廃業など)も絡むため、早期に専門家へ相談することが望まれます。
保証会社を利用している場合
家賃保証会社を利用している契約では、滞納が発生すると保証会社がオーナーへ家賃を立て替え払いし、その後保証会社が入居者へ求償する仕組みが一般的です。オーナーとしては滞納家賃の回収リスクを抑えられる一方、契約解除や明渡しの手続き自体は別途進める必要がある点に注意が必要です。
強制退去後、借主・貸主それぞれに起こること
残置物(荷物)はどうなる?保管と処分の流れ
断行時に室内に残っていた荷物は、執行官の管理のもとで一定期間保管されるのが原則です。保管期間内に入居者本人が引き取らなければ、売却や処分の手続きに進みます。保管や処分にかかる費用も、前述の強制執行費用に含まれます。
強制退去になった借主は次の家を借りられる?
強制退去や訴訟の記録が信用情報機関に登録されるわけではありませんが、家賃保証会社の審査データベースに事故情報として残る場合があり、その後の賃貸契約の審査に影響することがあるとされています。次の住まい探しに時間がかかるケースも少なくありません。
強制退去に警察は関与する?
強制執行はあくまで裁判所の執行官が行う民事の手続きであり、警察が主体となって退去させるものではありません。ただし断行の現場でトラブルが予想される場合や、入居者が抵抗する可能性がある場合には、執行官の判断で警察に立ち会いを依頼することがあります。
家賃滞納が続く物件は「売却」も選択肢に
滞納対応には時間・費用ともに大きな負担がかかります。今後も同じ入居者との関係が続くこと自体がリスクだと感じる場合は、物件を手放すことも現実的な選択肢の一つです。
入居者がいたまま売る「オーナーチェンジ」
入居者がいる状態のまま物件を売却する方法を「オーナーチェンジ」と呼びます。滞納中の入居者がいる物件でも、買主が家賃保証会社の切り替えや明渡し交渉を前提に購入するケースがあり、通常より価格は下がりやすいものの、滞納対応の手間や時間を手放して現金化できるメリットがあります。
明け渡し後に売却する場合の流れ
先に明渡しを完了させてから売却する方法もあります。空室になった分、買主の選択肢が広がり価格面では有利になりやすい一方、明渡しが完了するまでの期間はオーナー自身が滞納対応の負担を背負い続けることになります。物件の状態や資金繰りの状況によって、オーナーチェンジ・明渡し後売却のどちらが適しているかは変わってきます。
訳あり物件・共有名義でも買取できるケースがある
入居者トラブルを抱えた物件は「訳あり物件」として扱われることが多く、通常の仲介では買主が見つかりにくい傾向があります。こうした物件を専門に扱う買取業者であれば、入居者がいる状態のままでも査定・買取の相談に応じられる場合があります。訳あり物件の分類については「訳あり物件とは|6分類と告知義務・事故物件との違い」でも詳しく解説しています。
茨城県内でのご相談・ハウスドゥ4店舗体制
ハウスドゥでは、取手戸頭・守谷・つくば研究学園都市・県庁水戸の茨城県内4店舗で、家賃滞納や入居者トラブルを抱えた収益物件・訳あり物件のご相談を承っています。宅地建物取引士が在籍する各店舗が地域に密着して対応するほか、俳優の古田敦也さんをイメージキャラクターに起用したハウスドゥブランドとして、全国的な知名度と実務対応力の両方を備えています。「まずは物件がいくらで売れるか知りたい」という段階でも、無料査定からお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 家賃を滞納したら何ヶ月で強制退去になりますか?
A. 法律上の一律の基準はありませんが、裁判実務では信頼関係が破壊されたと判断される目安としておおむね3ヶ月程度の滞納が一つの分かれ目とされています。1〜2ヶ月程度の遅れであれば、通常は督促の段階にとどまります。
Q. 強制退去までの費用は誰が負担しますか?
A. 弁護士費用・訴訟費用・強制執行費用は、原則としてオーナー側が先に負担します。判決で滞納者への請求が認められれば後から回収を目指せますが、相手に資力がなければ実際に回収できないケースもあります。
Q. 強制退去にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. 督促から契約解除、訴訟提起、判決、強制執行の申立てまでを合わせると、早くても半年、長引く場合は1年近くかかるのが一般的です。入居者が争わず和解に応じればより短くなることもあります。
Q. 入居者は家賃滞納による強制退去を拒否できますか?
A. 判決や強制執行の決定が出た後は、入居者の意思だけで拒否し続けることは法律上できません。ただし手続きの各段階で入居者側が反論や交渉を行うことは可能で、その分手続きが長引く要因になります。
Q. 生活保護を受けている入居者が家賃を滞納した場合はどうなりますか?
A. 住宅扶助費を福祉事務所からオーナーへ直接支払う「代理納付」という制度があります。2020年4月から滞納がある場合の代理納付を原則化する運用が進められており、強制退去の手続きを進める前に自治体の福祉事務所へ相談する余地があります。
Q. 家賃滞納者がいる物件でも売却できますか?
A. 入居者がいる状態のまま売却する「オーナーチェンジ」や、訳あり物件を専門に扱う買取業者への相談など、いくつかの方法があります。物件の状況によって適した方法は異なるため、まずは査定で相場観を確認することをおすすめします。
まとめ
家賃滞納から強制退去に至るまでには、督促・催告・契約解除・訴訟・強制執行という複数の法的ステップがあり、期間は半年〜1年程度、費用は弁護士費用や強制執行費用を合わせて数十万円規模になることも珍しくありません。自力での鍵交換や荷物の撤去は違法となるおそれがあるため、必ず正規の手続きを踏むことが大切です。滞納対応そのものに疲れてしまった場合や、入居者トラブルを抱えた物件を手放したいと考えている場合は、オーナーチェンジや訳あり物件の買取という選択肢もあわせて検討してみてください。
さらに詳しく
- 立ち退き拒否されたらどうする?明渡し請求から強制執行までの流れと費用【2026年】
- 立ち退き料の相場はいくら?|借家人への支払いと売却への影響【2026年】
- 訳あり物件とは|6分類と告知義務・事故物件との違い
賃貸借契約の解除全般(家賃滞納・無断転貸を理由とする解除事由や手続きの流れ)について詳しくは「賃貸借契約の解除とは|家賃滞納・無断転貸で使える解除事由と手続きの流れ」もあわせてご覧ください。
無料相談フォーム
この記事に関するご相談はこちらから。秘密厳守で対応いたします。




