「茨城県は雪が少ないから、除雪の心配はいらない」——そう思われがちですが、実は県内でも地域差があります。建築基準法にもとづく積雪荷重の基準では、茨城県内は「30cm区域」と「40cm区域」に分かれており、県北の一部市町村は県内の他地域より重い雪を想定した建物づくりが求められています。本記事では、気象庁の観測データと茨城県の公式基準をもとに、県内の降雪・積雪の実態と、冬の暮らし・住まいへの影響を整理します。
茨城県はどれくらい雪が降るのか|気象庁の観測データで見る
茨城県内の気象観測は、水戸地方気象台(水戸市)とつくば(館野・高層気象台)の主に2地点で行われています。まずは気象庁が公表する平年値(1991〜2020年の30年平均)で、県内の降雪の実態を確認します。
水戸の年間降雪量は合計12cm・最深積雪7cm
気象庁「過去の気象データ検索」(水戸観測所、統計期間1991〜2020年)によると、水戸市の年間降雪の深さの合計は12cm、最深積雪(1シーズンで最も雪が積もった日の深さ)の平年値は7cmです。月別では1月が4cm・2月が6cm・3月が1cm・12月が1cmで、降雪はほぼ12月〜3月に集中しています。
つくばの年間降雪量は合計13cm・最深積雪7cm
同じく気象庁データによると、つくば(館野)の年間降雪の深さの合計は13cm、最深積雪の平年値は7cmと、水戸とほぼ同水準です。1月6cm・2月5cm・3月1cmという内訳も水戸と近く、県南・県央エリアの降雪傾向は大きく変わらないことがわかります。
年間の「雪日数」は水戸で年6.5日
雪が観測された日数(雪日数)の平年値は、水戸で年6.5日、つくばで年6.5日です。1年365日のうち雪が降るのは1〜2%程度にとどまり、積もったとしても数日で解けることがほとんどです。この「降っても積もらない・積もってもすぐ解ける」という特性が、茨城県の冬の暮らしの基本的な前提になります。
建築基準法が定める「垂直積雪量」|県内は30cmと40cmの2区分
気象庁の観測データだけを見ると「茨城県は雪が少ない」という一言で終わってしまいますが、不動産・住まいの観点で重要なのは、建物の構造計算に使われる「垂直積雪量」という別の指標です。これは実際の積雪の平均値ではなく、まれに発生する大雪でも建物が耐えられるよう、安全側に定められた設計基準の数値です。
垂直積雪量とは何か
建築基準法施行令第86条第3項にもとづき、都道府県知事が区域ごとに定める積雪荷重の基準値です。屋根に雪がどれだけの重さで積もることを想定して構造計算するかを定めたもので、茨城県内では茨城県建築基準法等施行細則第16条の4により、区域ごとに「30cm」または「40cm」の数値が定められています。
40cm区域は常陸太田市・常陸大宮市・久慈郡(大子町)の3市町
茨城県公式サイト「茨城県内の垂直積雪量について」(土木部建築指導課、2025年11月25日更新)によると、県内で垂直積雪量40cmが指定されているのは次の区域です。
- 常陸太田市
- 常陸大宮市
- 久慈郡(大子町)
この3市町はいずれも県北エリアに位置し、山間部を含む地形的特性から、県内の他エリアより重い積雪荷重を想定した建築基準が課されています。
市特定行政庁は独自基準|9市は各市の細則で規定
水戸市・日立市・土浦市・古河市・高萩市・北茨城市・取手市・つくば市・ひたちなか市の9市は「市特定行政庁」として、県の細則ではなく各市独自の建築基準法施行細則で垂直積雪量を定めています。このうち日立市・高萩市・北茨城市の3市(いずれも県北エリア)は40cm、水戸市・土浦市・古河市・取手市・つくば市・ひたちなか市の6市は30cmです(つくば市は平成12年建設省告示第1455号第2による算出値が30cmを超える場合はその数値を適用)。
県の細則区域とあわせると、県北の常陸太田市・常陸大宮市・大子町・日立市・高萩市・北茨城市の6市町が40cm、その他の38市町村が30cmという構図になります。県北エリアが構造的に「県内で最も雪の影響を考慮すべき地域」と位置づけられていることが読み取れます。
なぜ県北エリアだけ数値が高いのか
常陸太田市・常陸大宮市・大子町は茨城県の最北部に位置し、栃木県・福島県との県境に近い山間部を含みます。標高が高く、関東北部を通過する寒気の影響を受けやすいことに加え、太平洋側でも山沿いは平野部より積雪しやすいという地形的特性があります。日立市・高萩市・北茨城市も同じ県北エリアに含まれ、海に近い一方で山地が海岸近くまで迫る地形のため、同様の基準が適用されています。

県内エリア別の冬の暮らしの違い
県北エリア(日立市・常陸太田市・常陸大宮市・高萩市・北茨城市・大子町)
垂直積雪量40cm区域を多く含むエリアです。特に大子町は盆地状の地形で冷え込みが厳しく、道路の凍結や積雪による通行障害が県内でも比較的発生しやすいとされます。とはいえ、豪雪地帯のように毎年何十cmも積もるわけではなく、大きな寒波が関東地方に流れ込んだ年に限って積雪が目立つ、という頻度です。
県央エリア(水戸市・ひたちなか市・笠間市など)
垂直積雪量30cm区域が中心です。水戸の気象データが示すとおり、年間の降雪量・積雪日数とも少なく、根雪になることはほとんどありません。
県南エリア(つくば市・土浦市・牛久市など)
つくばの気象データが示すとおり、県央エリアと同水準の少雪傾向です。太平洋側気候で冬は乾燥した晴天が続く日が多く、降雪よりも空気の乾燥・霜対策のほうが実生活での関心事になりやすいエリアです。
県西エリア・鹿行エリア
県西エリア(古河市・筑西市など)、鹿行エリア(鹿嶋市・神栖市など)もいずれも垂直積雪量30cm区域に含まれ、県央・県南と同様に降雪は少なめです。ただし内陸の県西エリアは冬季の朝の冷え込みが強く、路面凍結には注意が必要とされています。
大雪注意報・警報の発表基準
気象庁の注意報・警報基準(水戸地方気象台管轄)では、茨城県南部地域で12時間降雪の深さ10cmが大雪注意報の発表基準の一つとされています。年間の最深積雪平年値が7cm程度であることを踏まえると、注意報が発表されるレベルの降雪は年に数える程度の「まれな事象」であることがわかります。だからこそ、いざ降ったときの道路の混乱や交通機関の乱れが県内では話題になりやすい、という側面もあります。
雪が少ない県だからこそ起こりやすいトラブル
除雪体制・除雪機の非保有
降雪頻度が低い地域では、家庭用の除雪機やスコップを備えていない世帯が多く、いざ積雪があると対応に手間取りがちです。豪雪地帯のような行政の常設除雪態勢も限定的で、道路管理者(県土木事務所・市町村)は主に凍結防止剤の散布や状況に応じた除雪車の出動で対応する体制です。
路面凍結によるスリップ事故
雪そのものより、朝晩の気温低下による路面の凍結(特に橋の上・日陰・トンネル出入口)が実生活への影響として大きいとされます。慣れない路面凍結でのスリップ事故は、豪雪地帯よりもむしろ「降雪が少ない地域」で相対的に多いという指摘もあります。
空き家・売却予定物件の管理面での注意
屋根の雪止め金具の有無や雨樋の凍結による破損は、空き家や長期不在の物件で見落とされがちなポイントです。特に県北エリアの40cm区域では、屋根の積雪荷重を考慮した設計になっているか、既存の古い建物では雪止めが適切に設置されているかを、売却前・購入検討時にあわせて確認しておくと安心です。
売却・購入時に知っておきたい積雪関連のポイント
重要事項説明での告知義務との関係
垂直積雪量そのものは個別物件の重要事項説明で直接説明が義務づけられている項目ではありませんが、過去に雪害(屋根の破損・雨樋の損傷など)があった場合は、物理的瑕疵として告知の対象になり得ます。売却を検討する際は、過去の雪害の有無を売主自身が正直に整理しておくことが大切です。
建築時期による構造基準の違い
垂直積雪量の基準は建築時点の法令にもとづいて適用されるため、古い建物では現在の基準と異なる数値で設計されている場合があります。特に県北エリアの中古住宅を検討する際は、建築確認時期と当時の積雪荷重基準を確認しておくと、リフォームや増改築の判断材料になります。

よくある質問
Q1. 茨城県は雪がほとんど降らないと聞きましたが本当ですか?
気象庁の平年値(1991〜2020年)では、水戸・つくばいずれも年間降雪量の合計は12〜13cm、最深積雪は7cm程度で、全国的に見ても少雪の地域です。ただし「全く降らない」わけではなく、数年に一度は大きめの積雪が発生することがあります。
Q2. 茨城県で最も雪が多いのはどのエリアですか?
気象庁の定点観測で県内全市町村を比較したデータはありませんが、建築基準法上の垂直積雪量が県内で最も高く指定されているのは常陸太田市・常陸大宮市・大子町(40cm)で、日立市・高萩市・北茨城市も同水準です。地形的にも県北エリアが県内で最も積雪の影響を受けやすいと考えられます。
Q3. 垂直積雪量は実際の積雪量と同じ数値ですか?
異なります。垂直積雪量は建物の構造計算に使う設計上の安全側の基準値であり、実際に毎年その深さの雪が積もるという意味ではありません。気象庁の観測データ(実際の平年値)とは目的も算出方法も異なります。
Q4. 積雪で不動産の売却価格が下がることはありますか?
積雪量そのものが直接的に価格を下げる要因になることは一般的には多くありません。ただし、雪害による屋根・外壁の損傷が未修繕のまま放置されている場合は、修繕費用分が査定額に影響することがあります。
Q5. 茨城県内で道路の凍結防止剤散布はどこが行っていますか?
県道・国道の指定区間は茨城県土木部および各地域の県土木事務所が、市町村道は各市町村がそれぞれ管理し、必要に応じて凍結防止剤の散布や除雪車の出動を行う体制です。
Q6. 空き家を冬の間放置しても大丈夫ですか?
茨城県は豪雪地帯ではないため雪の重みによる倒壊リスクは高くありませんが、水道管の凍結破裂や雨樋の凍結による破損は起こり得ます。長期不在にする場合は、水抜きなど基本的な凍結対策をしておくことをおすすめします。
まとめ
茨城県は全体として雪の少ない地域ですが、建築基準法上の積雪荷重の基準では、常陸太田市・常陸大宮市・大子町・日立市・高萩市・北茨城市の県北6市町が県内の他地域より重い数値(40cm)で区分されています。気象庁の観測データが示す「実際の積雪の少なさ」と、建築基準法が定める「万一に備えた設計上の基準」は別のものであることを理解した上で、住まい選びや売却の際は、エリアごとの特性・建物の建築時期・過去の雪害の有無を確認しておくことが大切です。
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