免許を返納した翌日から、それまで意識したことのなかった「バス停までの距離」が急に重くのしかかってくる。茨城県内の多くの市町村では、こうした変化に対応するため、コミュニティバスやデマンド型交通の整備が進められてきた。一方で、少子高齢化と運転士不足により、民間の路線バスは減便・廃止の圧力にさらされ続けている。この記事では、茨城県の公共交通の現状を県公表データから整理し、住まい選びや不動産売却との接点まで県全域の視点でまとめる。
茨城県公共交通の全体像
茨城県は自動車保有率が高く、鉄道・バスといった公共交通への依存度が全国的に見ても低い地域とされる。県自身もこの構造課題を認識しており、「自動車社会の進展・少子高齢化の進行等の影響により、鉄道、バス、タクシーといった公共交通の利用者は年々減少しており、このままの状況で推移すると、公共交通は地域住民の足としての機能を果たすどころか、その存続さえ危うい状況になることが予想される」と公式サイトで明言している。
自動車保有率と公共交通分担率の低さ
茨城県は世帯あたりの自動車保有率が全国上位クラスであり、通勤・通学・買い物のいずれも自家用車が主要な移動手段になっている地域が多い。裏を返せば、運転できない人(高齢者・未成年・免許非保有者)にとって、公共交通の有無が生活の質を直接左右するということでもある。
茨城県公共交通活性化会議(2007年設立)
県は平成19(2007)年10月に「茨城県公共交通活性化会議」を設立し、県民・地域・交通事業者・行政が公共交通のあり方を協議する場を継続的に運営している。同会議は利用促進団体への助成(地域公共交通利用促進活動事業・鉄道バス利用環境整備事業・講習研修費用助成)のほか、県内中学3年生に「バスお試し乗車券付きリーフレット」を配布し、1乗車100円で路線バスを体験してもらう取り組みも行っている。進学先を検討する際に通学手段を確認してもらうことが狙いだ。
茨城県地域公共交通計画(令和5〜9年度)の骨子
県は地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づき「茨城県地域公共交通計画」を策定している。計画期間は令和5年度から9年度までの5か年で、施行日は令和5年8月23日、その後令和6年6月27日と令和7年6月26日の2度にわたり改定されている。持続可能な地域交通ネットワークの構築を目指すマスタープランという位置づけだ。
市町村運営交通の4類型
茨城県公式の「地域公共交通システム等データ一覧」(令和6年度・令和7年9月11日修正版)を確認すると、県内市町村が運行・支援する交通システムは大きく4つの類型に整理できる。
①コミュニティバス
定時定路線で運行し、運賃を民間路線バスより低廉に設定するタイプ。つくば市の「つくバス」、古河市の「ぐるりん号」、下妻市の「シモンちゃんバス」、牛久市の「かっぱ号」、守谷市の「モコバス」、坂東市の「坂東号」など、多くの市がこの形態でまちなかの移動を支えている。
②デマンド型乗合交通
定時定路線を持たず、利用者の予約に基づき乗合で運行するタイプ。乗合タクシーとも呼ばれる。つくば市の「つくタク」、笠間市の「デマンドタクシーかさま」、鹿嶋市・神栖市・行方市・鉾田市など鹿行エリアの多くの市、常陸大宮市・那珂市・城里町・東海村・茨城町・大子町など県北〜県央の町村部で広く導入されている。人口密度が低く定時定路線バスの採算が取りにくいエリアで選ばれやすい方式だ。
③無料バス
運賃を無料に設定し、小規模な車両で運行するタイプ。結城市の市内巡回バス、大子町の町民無料バス「みどり号」(8路線を週1回運行)、取手市の「小堀バス」などが該当する。運行規模は小さいが、公共施設や中心市街地へのアクセスを補完する役割を持つ。
④路線バス赤字補助(廃止代替バスを含む)
民間バス事業者の既存路線に対し、市町村が赤字分を補助することで路線を維持するタイプ。日立市は「多賀駅-河原子-大甕駅」ほか39系統、「馬場八幡前-大橋-大甕駅西口」ほか35系統など、幹線・支線あわせて非常に多くの系統に補助を行っており、市民生活に必要な最低水準(平日日中4往復分など)を確保する目的が明記されている。水戸市も「石塚・内原線」「石塚・赤塚線」を茨城交通に運行委託し、水戸市〜城里町間のネットワーク維持に充てている。

【表】茨城県44市町村の公共交通運営パターン(5地域別)
県公表データで確認できた範囲を5地域(県北・県央・県南・県西・鹿行)に整理すると、以下のような傾向が見える。なお下表は代表例であり、実際には1つの市町村が複数の類型を併用しているケースが大半である。
| 地域 | 傾向 | 代表的な市町村例 |
|---|---|---|
| 県北 | 路線バス赤字補助が主体 | 日立市・常陸太田市・高萩市・北茨城市・大子町 |
| 県央 | 路線バス補助とデマンド型が併存 | 水戸市・笠間市・ひたちなか市・那珂市・茨城町・大洗町・城里町・東海村 |
| 県南 | コミュニティバスが充実 | つくば市・土浦市・龍ケ崎市・牛久市・守谷市・つくばみらい市・稲敷市 |
| 県西 | 広域連携バスと自動運転の先進地 | 古河市・筑西市・下妻市・結城市・桜川市・坂東市・境町 |
| 鹿行 | デマンド型乗合交通が中心 | 鹿嶋市・神栖市・行方市・鉾田市 |
民間路線バスを支える茨城交通・関東鉄道
茨城県内の路線バスは茨城交通、関東鉄道が二大事業者で、このほか関鉄グリーンバス、朝日自動車、京成タクシー茨城系列など地域ごとに複数の事業者が運行を担っている。市町村が運行するコミュニティバスやデマンド交通の多くも、実際の運行はこれら民間事業者やタクシー会社への委託で成り立っている。
主要バス事業者とエリア分担
茨城交通は水戸市を中心とした県央〜県北エリア、関東鉄道は取手・つくば・土浦など県南〜県西エリアを主要な地盤としている。2024年7月には関鉄パープルバスが関東鉄道に吸収合併されるなど、事業者の再編も進んでいる。
日立市にみる幹線・支線維持の実例
日立市は「日立市市民生活バス路線確保対策事業」として、幹線部分(多賀駅-河原子-大甕駅ほか39系統)と支線部分(馬場八幡前-大橋-大甕駅西口ほか35系統)の両方に赤字補助を行っている。目的は「市民生活に必要な最低水準である、平日日中4往復分の確保に必要な赤字額に対する補助」と明記されており、路線を丸ごと維持するために行政が費用を負担する構図が読み取れる。
鉄道がない町のバス依存(五霞町の例)
五霞町は町内に鉄道駅を持たない。町公式の説明によれば「町には、鉄道がなく、住民の買い物等の移動は、マイカー中心になっているが、公共交通は廃止代替路線バスのみ」という状況が長く続き、平成25年10月から「ごかりん号」の運行を開始、令和6年1月からは日中ルートをデマンド型に切り替えている。鉄道がない町ほど、バス・デマンド交通の存在が住民の生命線になりやすい。

全国が注目する自動運転バスの実証実験
茨城県は自動運転バスの実用化において全国的にも先進的な地域として知られる。特に境町と常陸太田市の取り組みは、単なる実証実験を超えて地域交通の一部として定着しつつある。
境町のAIオンデマンドバスと自動運転バス
境町は株式会社セネックによる「AIオンデマンドバス」と、BOLDLY株式会社による自動運転バス(10人乗り3台)の両方を運行している。自動運転バスは「高齢者等の交通手段を持たない町民が、医療機関を利用するための利便を確保することを目的とし、町内を巡回する」ことを目的に導入された、運賃無料の巡回サービスである。
常陸太田市の自動運転EVバス
常陸太田市も株式会社マクニカと連携し、自動運転EVバス(最大9名・2台)を運賃無料で運行している。人口減少と高齢化が同時に進む県北エリアで、次世代モビリティによる移動手段確保の実証が続けられている点は、他地域にはない茨城県ならではの特徴だ。
なぜ路線バスは減り続けるのか
人口減少と全国屈指の自動車依存率
茨城県は人口減少が続く一方、自動車への依存度が高いため、バスの採算が取りにくい構造が続いている。利用者が減れば減便・廃止に至り、それがさらに利用者離れを招くという悪循環が、県内の多くの路線で共通して見られる課題だ。
運転士不足という「2024年問題」
2024年4月から自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用され、バス・トラック運転手の人手不足に拍車がかかる、いわゆる「2024年問題」が全国で顕在化した。茨城県公共交通活性化会議も令和6年度から、利用促進等助成事業の対象費用にドライバー募集費用を追加し、他事業との併用を可能にするなど、県自身がこの問題への対応を制度面で明記している。
高齢化と免許返納者の増加
茨城県の高齢化率は令和7年10月時点で31.2%(既存記事「茨城県の高齢化率」参照)に達しており、運転免許を自主返納する高齢者が今後さらに増えると見込まれる。全国的に自主返納者数は増加傾向にあるとされるが、茨城県内の詳細な返納者数の一次資料は本記事執筆時点で確認できておらず、断定的な数値は記載しない。
車がないと住めない地域の実態
通院・買い物という日常動線
デマンド交通やコミュニティバスが整備されているエリアでも、運行本数は1日数便〜週1回程度にとどまる路線も多い。通院や買い物のタイミングを公共交通の時刻表に合わせて生活する住民は少なくない。
高校進学と通学という進路の制約
茨城県公共交通活性化会議が中学3年生に「バスお試し乗車券」を配布しているのは、進学先を検討する段階で通学手段の確保が現実的な制約になるためだ。公共交通の便が悪い地域では、進学できる高校の選択肢そのものが狭まる場合がある。
移住・住み替え検討者が見落としがちな視点
県外からの移住や住み替えを検討する際、駅からの距離やロードサイドの利便性は意識されやすい一方、「自分が運転できなくなったときにどう移動するか」という視点は見落とされがちだ。将来的な親の呼び寄せや、自身の高齢期の暮らしを考えるなら、コミュニティバスやデマンド交通の有無を事前に確認しておく価値がある。
住まい・不動産への接点
「駅から遠い」だけでは測れない資産価値
不動産の利便性は駅距離だけで語られがちだが、実際にはコミュニティバスやデマンド交通の有無・頻度が生活の質を大きく左右する。同じ「駅から徒歩30分」でも、コミュニティバスが1時間に1本走るエリアと、公共交通が事実上ない地域とでは、買主が抱く印象は大きく異なる。
空き家・実家じまいと移動手段の関係
実家じまいや空き家の相続では、遠方に住む相続人が現地の交通事情を把握しないまま売却を進めてしまうケースがある。売却活動の際に「最寄りのバス停」「デマンド交通の予約制度」「自動運転バスの運行エリアかどうか」を整理しておくと、買主への説明材料になり、成約までの安心材料にもなる。
売却・住み替え前に確認したい3つのポイント
①自宅周辺にコミュニティバス・デマンド交通のいずれかが運行しているか、②運行本数・予約要否・利用対象者の条件(住民限定・要事前登録など)、③自動運転バスなど新しい移動手段の実証エリアに含まれるか。この3点を市町村の公共交通担当課や県公式サイトの「地域公共交通システム等データ一覧」で確認しておくと、売却時の説明にも移住検討時にも役立つ。
エリア別の相談窓口
茨城県内での売却・査定は、担当エリアに応じてハウスドゥの各店舗にご相談いただける。つくば市周辺はハウスドゥ つくば研究学園都市、水戸市周辺はハウスドゥ 家・不動産買取専門店 県庁水戸、取手市周辺はハウスドゥ 取手戸頭、守谷市周辺はハウスドゥ 守谷が対応する。解体を伴う実家じまいは解体Do!にも相談できる。
よくある質問
Q1. 茨城県内で鉄道もバスもほとんどない地域はありますか?
A. 五霞町のように鉄道駅を持たない町もあるが、多くの市町村では廃止代替バスやデマンド型交通が公共交通の役割を担っている。「バスが全くない」市町村はまれで、形態が路線バスからデマンド交通に置き換わっているケースが大半だ。
Q2. デマンド型交通とコミュニティバスは何が違いますか?
A. コミュニティバスは決まった時刻・ルートで走る定時定路線型。デマンド型交通は利用者が事前予約し、予約に応じて運行するタイプで、人口密度が低いエリアで採用されやすい。
Q3. 境町の自動運転バスはどんな取り組みですか?
A. 境町はBOLDLY株式会社と連携し、高齢者など交通手段を持たない住民の医療機関利用を目的に、町内を巡回する自動運転バス(10人乗り3台)を運賃無料で運行している。AIオンデマンドバスも別途運行しており、全国的にも先進的な事例とされる。
Q4. バスの便が少ない地域で不動産を売却するときの注意点は?
A. 周辺のデマンド交通の有無や予約条件、最寄りのコミュニティバス停留所までの距離を事前に整理しておくと、買主への説明がしやすくなる。公共交通の情報は市町村の担当課や県公式サイトで確認できる。
Q5. 空き家を相続したが最寄りバス停まで遠い場合、売却は可能ですか?
A. 可能である。公共交通の便が良くない地域でも、価格や条件次第で需要は存在する。地域の交通事情を踏まえた査定を受けることが、適正な売却活動の第一歩になる。
Q6. 茨城県の公共交通に関する最新情報はどこで確認できますか?
A. 茨城県公式サイトの「いばらきの公共交通」ページ、および「地域公共交通システム等データ一覧」で市町村別の最新データが公表されている。個別の運行状況は各市町村の公共交通担当課への問い合わせが確実だ。
まとめ
茨城県の公共交通は、民間路線バスの維持補助、コミュニティバス、デマンド型交通、そして境町・常陸太田市の自動運転バスまで、市町村ごとに異なる形で「車がなくても暮らせる仕組み」を模索し続けている。人口減少と運転士不足が進むなかで、この土台は今後さらに変化していく可能性が高い。住まいを選ぶときも、売却を検討するときも、「駅からの距離」だけでなく「バス・デマンド交通の有無」まで含めて地域を見る視点を持っておきたい。
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