取得費加算の特例とは?相続不動産の売却税金を軽減する制度
相続した実家など、使う予定のない不動産の売却を考えたとき、多くの方が税金の悩みに直面します。「相続税を納めたのに、売却時にも多額の税金がかかるのでは?」という不安は、二重課税のように感じられるでしょう。
この税負担を軽減するために設けられた非常に有利な制度が**「取得費加算の特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)」**です。
この特例を一言でいえば、**「納付した相続税の一部を、不動産売却の経費として上乗せできる制度」**です。この仕組みを活用することで、不動産売却時にかかる譲渡所得税を大幅に節税できる可能性があります。ここでは、特例の基本的な仕組みとメリットを明らかにします。
相続不動産の売却、税金の二重払いを防ぐ「取得費加算の特例」
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出ると、「譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税の総称)」が課税されます。これは相続で得た不動産でも同じです。しかし、相続の際に「相続税」を納めている場合、さらに譲渡所得税も満額で納めると、一つの財産に二重で課税されているように感じられます。
取得費加算の特例は、この二重課税感を解消するための制度です。具体的には、相続した不動産を売却する際に、支払った相続税額のうち一定額を「取得費」に加算できます。
取得費が増えると、売却による利益(譲渡所得)が圧縮され、課税対象額が小さくなります。結果として、納める譲渡所得税が安くなるのです。この特例の知識があるかないかで、手元に残る金額が数十万円から数百万円変わることも珍しくありません。
なぜ節税できる?「取得費」に相続税をプラスする仕組み
譲渡所得税は、以下の計算式で算出される「譲渡所得」に課税されます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
ここで重要なのが**「取得費」**です。取得費とは、不動産の購入代金や購入時の手数料など、その不動産を手に入れるためにかかった費用のことです。取得費が大きいほど譲渡所得は小さくなり、税金も安くなります。
取得費加算の特例を適用すると、この計算式は以下のように変わります。
譲渡所得 = 売却価格 - (本来の取得費 + **特例で加算する相続税額** + 譲渡費用)
納めた相続税の一部が経費として認められ、取得費に上乗せされるのです。特に、親や祖父母が何十年も前に購入した不動産は、購入時の契約書がなく「取得費が不明」となるケースが少なくありません。この場合、取得費は売却価格の5%(概算取得費)で計算されるため、非常に低く見積もられ、多額の譲渡所得税が発生しがちです。
このような状況でも、取得費加санの特例を使えば、納付した相続税額を取得費に加算できるため、大きな節税効果が期待できます。
この特例を使うと、どれくらいお得になるのか?
特例による節税額は、売却価格や納付した相続税額などによって大きく異なります。例えば、相続税を数百万円納付した方が不動産を売却する場合、この特例で譲渡所得税が半分以下になるケースも考えられます。
正確な節税額を知るには、ご自身の状況に合わせた取得費加算の特例 計算 シミュレーションが不可欠です。取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で算出します。
加算できる相続税額 = その人の相続税額 × (その人の相続した土地等の価額 ÷ その人の相続税の課税価格)
この計算式は複雑に見えますが、後の章では、具体的なモデルケースを用いた取得費加算の特例 計算 シミュレーションで詳しく解説します。まずは「この特例を使えば、手元に残るお金が大きく変わる可能性がある」と覚えておいてください。
【利用条件チェック】取得費加算の特例を受けるための4つの適用要件
大きな節税効果が期待できる取得費加算の特例ですが、適用には国税庁が定める4つの要件をすべて満たす必要があります。ご自身の状況と照らし合わせ、セルフチェックしてみましょう。
要件①:相続または遺贈により財産を取得した者であること
まず大前提として、この特例は「相続」または「遺贈」によって財産を取得した人が対象です。
- 相続:亡くなった方(被相続人)の法定相続人が財産を引き継ぐこと。
- 遺贈:遺言によって特定の人(相続人以外も含む)に財産が譲られること。
生前贈与や個人間売買で取得した不動産は対象外です。あくまで「亡くなった方から財産を引き継いだ」ことが必須条件となります。

要件②:その財産を取得した人に相続税が課税されたこと
この特例の最重要ポイントは、「相続税を実際に納税したこと」です。
相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、遺産総額がこれを下回れば相続税はかかりません。また、「配偶者の税額軽減」などの特例を利用して納税額が0円になった場合も同様です。
【重要ポイント】
- 相続税の納税額が0円だった場合 → 特例は利用できません。
この特例は「相続税」と「譲渡所得税」の二重課税を調整する制度のため、そもそも相続税を納めていない方は対象外です。複数人で不動産を相続した場合、相続税を納めた人だけが、自身の納税額に応じて特例を使えます。
要件③:相続開始から3年10ヶ月以内に売却していること
特例の適用には時間的な制約があります。相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)の翌日から、3年10ヶ月以内に不動産を売却しなければなりません。
この「3年10ヶ月」という期間は、相続税の申告期限(10ヶ月)と、その後の猶予期間(3年)を合わせたものです。この期限を1日でも過ぎると、他の要件を満たしていても特例は一切利用できなくなります。
不動産の売却は、査定から引き渡しまで数ヶ月以上かかるのが一般的です。特に相続不動産は、相続人全員の合意形成などに時間がかかることもあります。特例の活用を視野に入れるなら、早めに売却準備を始めることが重要です。
要件④:譲渡所得の確定申告で特例の適用を受けること
上記の要件を満たしていても、特例は自動で適用されません。不動産を売却した翌年に行う確定申告で、ご自身で「取得費加算の特例を適用します」という手続きを行う必要があります。
具体的には、確定申告書の「譲渡所得の内訳書」に、取得費に加算する相続税額を記載し、計算明細などを添付して税務署に提出します。この手続きを忘れると特例は受けられません。
【適用要件セルフチェック】
- □ 相続(または遺贈)で不動産を取得しましたか?
- □ あなた自身が、相続税を納税しましたか?
- □ 相続開始から3年10ヶ月以内に売却しましたか(または、する予定ですか)?
- □ 売却の翌年に、確定申告を行う予定ですか?
すべてにチェックが入った方は、特例を利用できる可能性が非常に高いです。次の章では、具体的な取得費加算の特例 計算 シミュレーションを解説します。
【保存版】取得費加算の特例の計算方法|3ステップで節税額がわかる
適用要件をクリアできた方向けに、ここからは、具体的な取得費加算の特例 計算 シミュレーションを3ステップで解説します。手順に沿って確認すれば、ご自身のケースでどれくらいの節税が見込めるか把握できます。
【シミュレーションのモデルケース】
- Aさんが相続した財産
- 相続税の課税価格(財産総額):1億円
- Aさんが納付した相続税額:1,000万円
- 売却する不動産
- 相続税評価額:5,000万円
- 売却価格:6,000万円
- 譲渡費用(仲介手数料など):200万円
- 元の取得費:不明(売却価格の5%で計算)
- 所有期間:長期譲渡所得(所有期間5年超)に該当
ステップ1:まずは基本から!譲渡所得を計算する
まず、不動産売却の利益である「譲渡所得」の基本計算を理解しましょう。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
- 取得費:被相続人(親など)が不動産を購入したときの代金や手数料。不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計上できます。
- 譲渡費用:仲介手数料や印紙税など、売却に直接かかった費用。
モデルケースで、特例適用前の譲渡所得を計算します。取得費は不明なので、概算取得費(6,000万円 × 5% = 300万円)を使用します。
- 計算式
- 6,000万円(売却価格)- {300万円(取得費)+ 200万円(譲渡費用)} = 5,500万円
この5,500万円が、特例を適用する前の課税対象となる利益です。
ステップ2:特例のキモ!取得費に加算できる相続税額を計算する
次に、この特例の核心である「取得費に加算できる相続税額」を算出します。支払った相続税の全額ではなく、売却した不動産に対応する部分だけが対象となる点が重要です。
加算できる相続税額 = その人の相続税額 × (売却した不動産の相続税評価額 ÷ その人の相続税の課税価格)
モデルケースの数値を当てはめて計算します。
その人の相続税額:1,000万円
-
売却した不動産の相続税評価額:5,000万円
-
その人の相続税の課税価格:1億円
-
計算式
- 1,000万円 × (5,000万円 ÷ 1億円) = 500万円
この500万円が、取得費に上乗せできる金額です。

ステップ3:節税効果を実感!特例適用後の譲渡所得税を計算する
最後に、ステップ2で算出した500万円を取得費に加算し、最終的な納税額を計算します。
まず、特例適用後の取得費を計算します。
- 特例適用後の取得費:300万円(元の取得費)+ 500万円(加算額)= 800万円
次に、この新しい取得費で譲渡所得を再計算します。
- 特例適用後の譲渡所得:6,000万円 - {800万円 + 200万円} = 5,000万円
課税対象の譲渡所得が5,500万円から5,000万円に圧縮されました。この譲渡所得に税率(長期譲渡所得:20.315%)を掛けて納税額を比較します。
- 【特例適用前】の納税額:5,500万円 × 20.315% = 11,173,250円
- 【特例適用後】の納税額:5,000万円 × 20.315% = 10,157,500円
節税額:11,173,250円 - 10,157,500円 = 1,015,750円
このシミュレーションでは、取得費加算の特例で約101万円の節税ができました。この3ステップで、ご自身のケースの節税額を大まかに把握できます。
いくらお得?ケースで見る取得費加算の特例 計算シミュレーション
取得費加算の特例による節税額は、相続の状況によって大きく変動します。ここでは、より現実に即した3つのケースで計算シミュレーションを行い、特例の効果を具体的に見ていきましょう。
ケース1:土地建物を一人で相続した場合
一人の相続人が不動産のみを相続・売却するシンプルなケースです。
【設定】
- 相続人:長男1人
- 相続財産:実家の土地・建物のみ(相続税評価額:8,000万円)
- 納付した相続税額:770万円
- 売却価格:7,000万円
- 取得費:不明(概算取得費350万円)
- 譲渡費用:250万円
- 所有期間:長期(税率20.315%)
この場合、相続財産が売却不動産のみなので、納付した相続税770万円の全額を取得費に加算できます。
【計算シミュレーション】
| 項目 | 特例なし | 特例あり |
|---|---|---|
| 売却価格 | 7,000万円 | 7,000万円 |
| 取得費 | 350万円 | 1,120万円(350万円+770万円) |
| 譲渡費用 | 250万円 | 250万円 |
| 譲渡所得 | 6,400万円 | 5,630万円 |
| 納税額 | 13,001,600円 | 11,435,345円 |
節税効果:1,566,255円
このケースでは、約156万円の節税となりました。納付した相続税額が大きいほど、節税効果も高まります。
ケース2:兄弟で共有名義で相続・売却した場合
兄弟2人が不動産を共有で相続し、売却したケースです。各相続人が要件を満たせば、それぞれ特例を適用できます。
【設定】
- 相続人:兄と弟(持分1/2ずつ)
- 相続財産:実家の土地・建物のみ(相続税評価額:1億円)
- 納付した相続税額:兄610万円、弟610万円
- 売却価格:8,000万円(各4,000万円)
- 取得費:800万円(各400万円)
- 譲渡費用:300万円(各150万円)
- 所有期間:長期(税率20.315%)
兄1人分の納税額を計算します。
【計算シミュレーション(兄1人分)】
| 項目 | 特例なし | 特例あり |
|---|---|---|
| 売却価格 | 4,000万円 | 4,000万円 |
| 取得費 | 400万円 | 1,010万円(400万円+610万円) |
| 譲渡費用 | 150万円 | 150万円 |
| 譲渡所得 | 3,450万円 | 2,840万円 |
| 納税額 | 6,993,675円 | 5,769,460円 |
兄1人分の節税額:1,224,215円 兄弟合計の節税額:1,224,215円 × 2人 = 2,448,430円
共有名義でも、各自が支払った相続税額を基に特例を適用することで、合計で約245万円という大きな節税が可能です。
ケース3:不動産以外の財産も相続した場合
不動産と預貯金などを一緒に相続した、より複雑なケースです。この場合、加算できる相続税額は按分計算されます。
【設定】
- 相続人:配偶者1人
- 相続財産合計:1億5,000万円(内訳:売却不動産6,000万円、預貯金など9,000万円)
- 納付した相続税額:480万円
- 売却価格:7,000万円
- 取得費:500万円
- 譲渡費用:200万円
- 所有期間:長期(税率20.315%)
まず、取得費に加算できる相続税額を計算します。
- 加算できる相続税額:480万円 × (6,000万円 ÷ 1億5,000万円) = 192万円
【計算シミュレーション】
| 項目 | 特例なし | 特例あり |
|---|---|---|
| 売却価格 | 7,000万円 | 7,000万円 |
| 取得費 | 500万円 | 692万円(500万円+192万円) |
| 譲渡費用 | 200万円 | 200万円 |
| 譲渡所得 | 6,300万円 | 6,108万円 |
| 納税額 | 12,798,450円 | 12,403,962円 |
節税効果:394,488円
このケースでは、節税額は約39万円でした。不動産以外の財産が多いと、加算できる相続税額が少なくなり節税効果は限定的になりますが、それでも適用を検討する価値は十分にあります。
申告前に要確認!特例利用の注意点と他の税務控除との関係性
取得費加算の特例は有効な節税手段ですが、利用前にはいくつかの注意点、特に他の税務控除との関係性を理解しておく必要があります。誤った選択をすると、かえって損をする可能性もあります。

取得費加算の特例を適用するための3つの要件(再確認)
まず、特例の適用条件を再確認しましょう。
- 相続または遺贈で財産を取得した。
- その財産の取得で相続税を納税した。
- 相続開始から3年10ヶ月以内に売却した。
特に3つ目の「3年10ヶ月以内」という期限は厳守する必要があり、計画的な売却活動が求められます。
最大の注意点!併用できない他の特例
取得費加算の特例を検討する上で最も重要なのが、**「他の特定の特例とは併用できない」**という点です。納税者はどちらか有利な方を選ぶ「選択適用」となります。特に以下の2つの特例との関係は必ず理解しておきましょう。
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除 自身が住んでいたマイホームを売却した際、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(空き家特例) 被相続人が住んでいた空き家を相続して売却した際、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例。
これら2つの「3,000万円控除」と「取得費加算の特例」は、同時に使えません。
どちらの特例を選ぶ?有利不利の判断シミュレーション
どちらの特例が有利かは、「どちらがより多くの税金を減らせるか」で決まります。ご自身の状況で有利不利を判断するため、取得費加算の特例 計算 シミュレーションと3,000万円控除の比較が欠かせません。
一般的には、譲渡所得が3,000万円を超える場合、3,000万円の特別控除を選択した方が圧倒的に有利です。簡単な計算シミュレーションで比較してみましょう。
【シミュレーション条件】
- 譲渡所得:4,000万円
- 取得費に加算できる相続税額:300万円
- 税率:長期(20.315%)
パターン1:取得費加算の特例を適用
- 課税譲渡所得:4,000万円 – 300万円 = 3,700万円
- 納税額:3,700万円 × 20.315% = 7,516,550円
パターン2:3,000万円の特別控除を適用
- 課税譲渡所得:4,000万円 – 3,000万円 = 1,000万円
- 納税額:1,000万円 × 20.315% = 2,031,500円
このシミュレーションでは、3,000万円の特別控除を選んだ方が約548万円も納税額が少なくなりました。
控除額が「取得費に加算した相続税額」と「3,000万円」では、後者がはるかに大きいケースがほとんどです。そのため、3,000万円控除の要件を満たすなら、そちらを優先的に検討するのがセオリーです。一方で、譲渡所得が少ない場合や3,000万円控除の要件を満たせない場合は、取得費加算の特例が有効な選択肢となります。
取得費加算の特例の適用に必要な確定申告の手順と添付書類
取得費加算の特例を適用するには、必ずご自身で確定申告を行う必要があります。ここでは、手続きの流れと必要書類を解説します。
確定申告の基本的な流れと期間
- 申告期間:不動産を売却した年の翌年2月16日から3月15日まで。
- 申告書の入手:税務署の窓口、または国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作成・印刷できます。e-Tax(




